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第11話 変化
晴人と話して二日後、俺と遼はいつも通りゲームで遊んでいた。今回は遼の家の一室。彼の家は一軒家で親と一緒に暮らしているらしいが、遊びにくるときは彼以外にいない。彼自身が両親のいない日を目安として上がらせているから当たり前だが、彼の両親は忙しい人たちだなと思う。基本的に夕方までは遊べる日の方が多いからだ。まあつまりは、遼とこうやって遊ぶときは大概二人きりということだ。風情など特には無いが。
ゲームがひと段落して、遼はこちらに体を向ける。
「謙。」
「ん?」
「晴人と、なに話した?」
「あぁ……」
結局、俺たちはあれから特になにも話さなかった。晴人が驚いたまま固まり、俺はその間に逃げただけだが。
晴人の異常性も分かった。遼が今危険視した理由も、どことなく理解した。しかし、俺の中にはまだ甘さがあった。
「晴人は本当に異常だ。なかなかストーカーを辞めてはくれないだろう。だが、諦めさせれば、きっと……」
「諦めさせるって、どうやって?」
遼の鋭く、真っ当な言葉が俺の甘い考えを指摘する。俺は、ただただ丸く収めたかった。そうでもなければ、今ある関係のすべてが壊れてしまう気がしたからだ。
異常者だとしても、晴人は人気者で、その気になればいくらでも俺たちに被害を加えられるだろう。そう、昔あったイジメのように。そこに遼を巻き込みたくなかった。だから、俺は……。
「遼は気にしなくていい。今はまだ考えているが、どうにか諦めさせる。だから……」
「謙は、俺が好きなの?」
「えっ……」
遼のどこまでも真っ直ぐで見透かしたような質問に、俺は言葉を失った。
想いはずっと隠してきたはずだった。本当は結ばれたいと、自分も愛されたいと、そう期待していつか恋仲になりたいと願った。けど、願いは叶わないとも思っていた。矛盾を抱え行きついた先は、進展を祈るだけの現状維持。それが、今、崩れようとしている。
「あ、ああ、俺は……」
今の関係を維持したい自分と、進展を望む自分が乗っかった天秤は揺れ動き続ける。考え、考えた先に、俺はもう無理だと思った。想いを隠し続けるのも、こうなってははぐらかしても無駄だ。なら、正直に答えるほかないだろう。それが、せめてもの誠意だから。
「俺は、遼のこと――好きだ。」
遼の望む俺でありたいから、今までずっと抑えて来た。不意に目で追ってしまったり、遼のことだけを考え続けたり、悩んで悩み続けて結果なにもしなかったり。どれも吐き出せない感情だった。言ってしまえば、壊れてしまいそうだから。関係も、俺自身も。
遼は俺の告白を聞いて、その場から立ち上がり俺の横まで接近し、口を開く。
「じゃあ、付き合おう。」
「え、は?!」
「そうすれば、晴人も諦めてくれるかも。」
「あ、そういう……」
まさかの返事に驚いたが、遼らしい考えになんだか落胆するような安心するような、そんな複雑な気持ちが心の中で同棲した。が、冷静になった俺はいやいやと顔を横に振る。
「偽装だとしても、俺は本気でお前のこと好きなんだぞ!? こう話してるうちに、お、襲われるとか考えないのか?!」
俺はそう言いながら、顔が急激に熱くなる。遼は平然とした顔で、俺の腕を掴んだ。
「じゃあ、襲うの?」
「は……」
遼は表情を一切変えず、俺を見つめる。普段見せないようなその男らしさに胸がドキッとし、火山が噴火したかのように顔が熱くなる。
続けて遼は口を開く。
「謙は、できない。知ってるから。」
それだけ言って、遼は掴んでいた俺の腕を離した。
「顔、真っ赤。」
遼は俺の顔を覗き込んでそう言った。こいつ、分かっていて俺のことからかっていないか?
「あぁくっそ、なんでこうなっかな……」
顔の熱を冷ますように、顔を下げて自身の額に手を当てた。今の自分が情けないことを自覚し、プライドのために今の自分を隠したかったのだ。
俺がうなだれている間、遼は元々座っていた場所に座り、テーブルに置かれてチップスを一口食べる。
「つか、恋人装うつってもどうするんだ?」
「恋人らしいことする。」
「お前、正気じゃないな?」
「さあ。でも他にない。」
「けど流石に大学では出来ねえだろ。せいぜい一緒に行動するぐらいが妥当じゃないか?」
「じゃあ、そうする。」
「あぁ……ああ?」
今日はただ遊ぶだけだったはずなのだが、なぜかとんでもないことになってしまった気がする。しかし心のどこかで、嬉しいと感じている自分がいた。この関係のまま、恋人ごっこという新たな二人の関係が始まる。問題に対処するだけの一時的な関係だとしても、なにか変わる気がするのだ。それが、良い方向であることを願うばかりである。
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