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第12話 愛を

 * * *  諦められなかった。やっと、本気で好きだと思えたから。  小学生の頃、俺は気弱で家がお金持ちという理由だけでイジメられていた経験がある。イジメっていうのはイジメられる側にも問題があると言うけれど、俺は単に相手が俺の事を気に食わなかったからイジメていたんだと思う。何も自慢はしていなかったけど、当時は女の子と話すことも多くて、それをよく思わない人に目をつけられたんだと思ってる。  イジメは1年ぐらい続いた。最初こそ可愛いものだったけど、最終的に暴力を振るうようになってきた。俺が何も抵抗しなかったから、調子に乗ったんだろう。それでも俺は周りに心配をかけたくなくて、誰にも相談出来ず心身ともに疲弊していった。そんなある日、俺は"彼"に出会った。”彼”はイジメの現場を見て、すぐにイジメてくる人たちを殴って俺をあの地獄から救ってくれたんだ。それから、俺はイジメを受けることもなくなって、”彼”を探すようになった。一度もクラスメイトにはなれなかったし、名前も知らないけど、”彼”はあの時から……俺の王子様だった。  中学の時、俺は引っ越すことになって本来通うはずだった中学校が変わってしまう。それはすなわち、”彼”と会えないことを意味していた。凄く嫌だった。でも、だからこそ俺は生きるための処世術を学んだ。自分の傷を隠すように、上手なパフォーマンスで取り繕ろえるようになった。けれど、これが俺を苦しめることになる。  俺に告白してきた女子がいた。断る理由も無いし、断って泣かせたくなかったから、いいよと返事をした。初めての彼女だったから、自分にできる限りのことはなんでもした。彼女が喜びそうなものを与えて、愛を込めて接している、つもりだった。突然、彼女は「私のこと、本当に好きなの?」と聞いてきた。もちろん、俺は「うん」と答えた。けど、彼女は納得していなかったようで、「好きなら好きって言ってよ!」と激昂(げきこう)され、そのまま勢いよく別れた。  別れたあの時、俺はショックを受けた。彼女を失ったことでもなく、自分が良いと思っていたことが相手に伝わなかったことや、本当は彼女のことを好きでは無かったことに気がつき、自分に失望したんだ。  俺は、八方美人だった。周りに合わせて喜びそうなことをこなしていたら、いつの間にか自分の本当の感情に気がつけなくなっていた。それは、高校生になってからも続いた。本当の好きを知るまでは、そのことに気がつけなかったぐらい重症だった。  だから、というわけではないけれど、高校に上がって遼を見たとき、どこか寂しさを感じた。同時に、”彼”と同じような雰囲気も感じた。一人窓際で景色を眺める姿を見て、話しかけなきゃと思った。今となれば、遼は俺が話しかけなくても友達が出来て、それなりに生活していたんだろうなと思う。あんまり話さないし無表情で掴めない人だけど、その内面はすごくハッキリしていて(したた)かだ。きっと、俺よりも魅力的で素敵な人。”彼”のように。  そのほかの高校でのエピソードは、とっても薄い。強いて言うなら、友人たちに連れまわされたことや友人と思って接してきた女子から告白されたことぐらい。告白は全部断った。みんな可哀そうな表情をするけれど、いつか君達は俺に失望する。だから、最初から断るんだ。俺はもう、あんな言葉を聞きたくない。愛する覚悟も、愛される覚悟も無いから。  そうして高校の時は過ぎて、大学に上がる。入学してからすぐ、俺たち新入生はオリエンテーションを受ける。そこで、俺は斜め前に座った男性が気になった。その男性は目つきが鋭く、スタイル抜群で誰も寄せ付けないオーラを放っていた。他と比べ異彩を放っていたのはもちろん、俺が特に気になったのは……チョーカーだ。男性は特徴的なチョーカーをつけていた。それを見て、俺は”彼”の姿が浮かんだ。彼は首に引っかき傷を持ってた。ちゃんと見ないと分からない程度の軽い傷。それが今でもあるかは分からいけど、顔と雰囲気で分かる。この男性は……”彼”で間違いない。  ”彼”だ、そう確信したとき、俺は今まで感じたことのない高揚感に包まれた。刺激的で、衝動的で、破壊的で、それ以外なにも気にならないほど心が支配される。やっと、会えた。  そもそも”彼”の名前も知らなかったから確定ではなかったけれど、気になった俺は彼を親睦会に誘って、探りを入れてみた。名前、そして住所を……小型のGPSを彼の上着のフードの中に入れて、バレることなく知った。彼の名前は大瀧 謙。彼は友人が少なくて探るのに少々てこずったけど、そのための労力は苦じゃない。じっくり時間をかけて、色んなことを知った。でも、その時間で、謙は遼とどんどん仲良くなっていた。負けた感じがするけど、俺は特に気にしてはいなかった。いずれ、俺は彼を手に入れるから。  時間をかければかけるほど、俺の謙に対する気持ちは増幅していた。自分でも抑えられないぐらい、手に入れたい、欲しい、好きという感情が渦巻いている。これが、愛なのかな。昔言われた、好きという感情なのかな。うん、きっとそう。だって、こんなにも君を愛したいと思っているんだよ?大好きだって、迷いなく言える。君は、あのときから俺の王子様だもの。そう、俺の初恋の人……そうだよね?    ねえ、謙くん。俺の愛も、なにもかも全部あげるから、だから――お願いだから、俺も愛してよ。  * * *

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