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第2話

 数々のラノベ、マンガで予習した甲斐あって、我ながらスムーズな返しだ。  正直、だらだらした展開は苦手なのだ。ここはチュートリアルと割り切って、サクサク対応する。 「あぁ、話が早くて助かりました。ここは、デュナン王国の王宮です。王宮の神殿にて、大賢者召喚の儀式を行いまして、やってこられたのがケイスケ様です」 「あー…………」  マグオプには、デュナンなんて国は存在しなかった。それに大賢者召喚ってことは、勇者ではないってことで。……強くてニューゲームの可能性が、消えた。 「ケイスケ様、あの……よろしいですか?」  テンションだださがりの俺に、恐る恐るレッドが尋ねる。 「大丈夫だ。話を続けてくれ」  そして、レッドが、二百年前の建国当時の歴史を語りはじめた。  当時、この国の北半分は、瘴気が強く人の住めない魔界と呼ばれる地域で、瘴気の影響を受けて危険な方向に進化した動植物が多くいたのだという。おまけに、瘴気を含んだ風――魔風――が吹き、魔界に近い場所は農作物も育たなかった。  そこで登場したのが、デュナン王国の初代国王のルオーク・グリフィスだ。  ルオークはこのあたりを本拠地とした弱小部族の若き族長で、生まれつき強い魔力を持っていた。  自分の故郷を、安全に人が住める地にしたい。  常々そう願っていたルオークは、たまたま異世界より訪れた強い魔力を持った男、シアンと出会う。  ふたりは意気投合し、手を携え、魔力を劇的に高める金魔石や、魔術を長持ちさせる賢者の石といった奇跡のアイテムを作成し、魔界を結界により封じたのだ。  そうして、この地は安全な地となり国家ができた。 「デュナン王国は、東をイスファーン、西をトルケアという大国に挟まれておりますが、魔界を封じていること、そして金魔石により大魔術を行使できるため、侵略も受けず、二大国家の貿易の中継地として商業、そして南部の肥沃な大地による農業国家として繁栄しています。が、それも近年危うくなりつつあります。その原因は、金魔石の減少です」 「減少って……。なくなったのなら、また作ればいいんじゃないか?」 「金魔石の作り方は秘術とされておりまして……。極秘文書として保管されておりましたが、その、二百年の間に紛失してしまいまして……」 「そんな大事な書類、なんでちゃんと保管してなかったんだ?」 「ケイスケ様のおっしゃる通りでございます」  あまりのうかつさに素で突っ込むと、レッドが目に見えて小さくなる。すると、レッドの隣にいた五十代くらいの男性が一歩前に出た。 「私は軍務大臣のセオバルト・オニール。そういったわけで、金魔石を作ることが叶わず、我らは新しく大賢者となるべき者――あなたを――召喚するに至ったのだ」  セオバルトは、痩身で神経質そうな、軍人というより本社の人事課長のような雰囲気の持ち主だ。  あー、なんかいかにもコストカッターで、派閥は社長で覚えがめでたい感じ。 「まずは、魔力を測定しましょう。ケイスケ殿、こちらへ」  セオバルトの言葉に、隣に控えていた騎士がワゴンを押してきた。  魔法陣が描かれた金属板に、大きな丸い水晶玉が置かれている。  これは! なんというお約束な異世界アイテム!!  セオバルトに導かれるまま、俺はわくわくしながら水晶に手を置いた。水晶が淡く光り、七色の光が虹のように浮かんで、最後に消えた。 「これは……」  セオバルトたちの表情が変わった。  うんうん。俺の魔力量が破天荒で、驚いてるんだな。  両手を腰にあて、胸をそらして「結果は?」と尋ねる。 「オメガ……です」  オメガというのは初耳だ。  いや、なにかでアルファにしてオメガなり、という言葉を聞いたことがある。  古代ギリシャ語のアルファベットの最後の文字ということは、超弩級の魔力量と、つまりは、そういうことだな! 「オメガというのは?」  すまし顔で聞いてみると、レッドがおずおずと口を開く。 「えっと……。私どもの世界では、すべての人間が大なり小なり魔力を持って生まれています。魔力は四大――火・風・水・土――の属性にわけられ、ひとつから四つまでの属性を持ちます」 「それで?」 「四属性すべてを持つ者をアルファといいまして、それ以外はベータといいます。私は水と風の属性を持つベータです。そして、オメガというのは……」  ここで、レッドが泣きそうな表情で俺から顔をそむけた。 「魔力量が極めて少ない人間のことをいいます」 「へ?」 「だから、その……ケイスケ殿は、魔力量が少ないということさえなく、それ以下。正真正銘、ゼロだったのです」 「…………なんだってぇ!?」  魔力量がゼロって……。チートじゃないのかよ!!  期待を裏切る結果に、視界の隅を意識で探す。  たいていの場合、どこかにアイコンがあって、ステータスが確認できるはずなのだ。  だがしかし、アイコンは、ない。 「ステータスオープン」  小声でつぶやいてみても、視界に変化はない。ステータス画面は出てこない。  せめて、大賢者:レベル1という表示を見られれば……という、儚い期待は木っ端みじんに吹き飛ばされた。落胆のあまり全身から力が抜ける。  その場にがっくりと膝をつき、拳で床を叩く。  異世界召喚されたのに、強くてニューゲームでもチート無双でもないなんて! 「……俺、元の世界に帰れます?」 「残念ながら、呼び寄せる魔術はありますが、帰す魔術はないんです……」  これまた、お約束のパターンのひとつだ。クエストを達成したら帰還を選べることもあるけれど、帰る方法がない一方通行の場合も多い。  あぁもう、詰んだ。第二の人生が、はじまった途端にゲームオーバーだなんて。  スマホも財布も助手席に置きっぱだし、まじで着の身着のまま。  そういえば、異世界召喚もののパターンに、召喚に巻き込まれた勇者や聖女以外の人物がその後は牢に入れられたり、ぽいっと捨てられるのもあったっけ。  そういう場合、実はすごい能力が隠されてたりするけど、魔力ゼロじゃ、その線も薄い。どうする、俺!?  内心でパニックを起こしていると、今まで他の男たちの陰に隠れるようにしていた長身の男が俺に近づいてきた。  鬼火のような光に照らされて、はっきりと男の顔が見えた。 「……ランベルト?」  男は二・五次元の舞台のランベルトだと紹介されたら『尊い……』と拝むレベルで、ランベルトそのものだった。  光を受けて輝く金髪、優しげなエメラルドの瞳。白磁の肌に、きりっと引き結ばれた唇が知性を感じさせる。年の頃は三十歳くらいだろうか。  甲冑姿ではなく、フリルっぽいシャツと刺繍の入ったベストに上着、揃いのズボン。肩にはマントを羽織り、見るからに高そうなサファイアと金のブローチで留めていた。 「私はブライアン・モル・グリフィス。デュナン王国の国王だ」  なんとびっくり、ランベルトのそっくりさんは王様だったのか。  惜しい。顔は似てるけど、CVが違う。

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