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14 同僚

「お前うちのホープと知り合いだったのか? 意外だな」 「そんなんじゃない」  神崎は紙袋を俺に手渡した。中身はリーバイスのジーンズ。この間、伊勢に買ってやった着替えだ。 (返してもらっても着られないって)  足の長さもウエストも俺のサイズとは違い過ぎる。  買ったのはジーンズだけではなかったはずだが、さすがに下着は返しにくかったのか。 「伊勢にお前が戻るまで待ってろって言ったんだけどさ、なんか顔真っ赤にしてたぞ。訳アリなのか?」 「べ、別に」  訳も大有りだ。  真っ赤な顔と聞いて、それを見られなかったことを惜しいと思っている。そんな自分が理解不能だ。 「──あいつ、帰ったのか」 「ほんのついさっきな。擦れ違わなかったか?」 「えっ」  反射的に駆け出して、講師室のドアを開ける。  しんとした廊下に舌打ちしてから、室内へ戻り、今度は窓の外を見た。  眼下の景色には、雨粒に揺れる桜の花と公園の池と、駅へと通じるアスファルトの道路があった。 (伊勢…)  髪の色と肩に掛けたバッグのデザインで、伊勢を見付け出す。  彼は傘も持たずに一人で歩いている。 (風邪ひくだろうが。バカ)  これは庇護欲だと、俺は自分に強く言い聞かせた。  ただ純粋に、雨に濡れた伊勢の髪や肩が寒そうに見えただけだ。 「──神崎、お先」  雨の下で凍えるウサギ。放っておけない。  紙袋と私物を抱えて猛ダッシュする。全力疾走をしたのは何年ぶりだろう。

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