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21 ウサギ、大人を惑わせる 1
「先生は背が高いから、僕のことをこんな風に見てるのかな」
「眺めがいいか」
「うん。僕はずっと……、ずっと先生を見てました」
「何言ってんだ。知り合ってまだ一週間も経ってないぞ」
茶色の前髪を梳いてやると、むずかるように首を振る。
俺の腹に押しあてられていた伊勢の下半身が、敏感に欲情を示している。
「──固いの、あたってんだけど」
密着しているからすぐに分かる。男の上に乗って勃起しているウサギ。
「お前はおかしい。…病気だ」
「治らない……みたい」
「そんなに感じるのか…?」
「…うん」
「一人で出してこい。すぐ治る」
何を言われたか分かったのだろう。おぼこい瞳を恥ずかしそうに逸らす。
こうして抱きついたり大胆なことをするくせに、伊勢の行動はつくづく矛盾している。
「…先生といる時だけ、感じる」
「俺とだけ? イイのか?」
「うん」
「この野郎」
色気まみれのセクシャルな誘惑の方がまだマシだ。
こんな小さなウサギの、罪のない笑顔で囁かれる告白よりは。
「先生が好き」
「…だから、それは違うって」
これ以上告白させないように、伊勢の唇に封をした。
ペットの動物をあやすつもりで、艶のあるそれを指で撫でる。
(ほんとにウサギだったらいいのに)
そうすれば腹の上に乗せることも、抱き締めることも何の躊躇もいらない。
懐いてくる分だけ甘やかせばいいのだ。
「男は女に欲情するんだ。小学校の性教育からやり直してこい」
伊勢はまだ何か言いたそうだったが、指先を彼の唇に擦り付けて黙らせた。
甘噛みに似た感触が柔らかくて、目眩の後のようにぼんやりとしたまま、俺は長い間そこから指を離せないでいた。
(……ふわふわだな)
顔相応の幼い歯列が見える。その奥も柔らかそうで、つい指を挿し入れてしまった。
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