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24 悩める大人
(くそっ。ついてない)
トースターのタイマーを放置していたせいで、朝食の食パンは焦げていた。
味をごまかすためにたっぷりとマーガリンを塗って、口の中に押し込む。咀嚼しながらスーツの上着に袖を通し、トレンチコートを羽織っていると、ちょうど出勤時刻になった。
ブルーマンデーで頭が重たい。
今日の講義内容を反芻しようと思っても、寝不足の頭に出てくるのは伊勢のことだけだ。
(自分で突き放しておいて、勝手だ)
彼の部屋で過ごした短い時間が、澱のように胸に詰まって、記憶の中からなくならない。
伊勢のことを知らないままでいた方がよかった。受験を断念してまで両親の離婚を止めた彼は、一般論にはあてはめられない潔さと、穢れないところを持っている。
(……無責任な講師)
中途半端に優しくして、拾った動物をもう一度捨てるようなことをした。
ウサギは俺に懐いて甘えていたのに。
好き。耳に残って離れない、伊勢の囁き。
ウサギの告白をまっすぐには受け止められない。俺は常識人で、堅い大人だから。たとえ伊勢を可愛いと思っても、それは教育者としての感情だ。
そう結論づけても否応なく惹かれてゆく。
夢の中にまで出て来て、伊勢は俺を引っかき回す。少年の笑顔と快感に火照った顔で、交互に先生、と呼んで、眠れない夜を与える。
(もう考えさせないでくれ。伊勢)
認めてはいけない。俺の指に舌を絡ませ、腰を動かす彼に、男として反応したことを。
俺は欲望を制御することができる。だから伊勢を傷付けずに逃げ出すことができたのだ。
週末に降った雨のせいで、通勤路にはいたるところに桜の花弁が散っている。
それらを革靴の足でよけながら、ぐったりと項垂れて地下鉄の駅へ向かう。
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