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30 ウサギとの恋 2
待ち合わせはその日の夕刻。
講義を終えた伊勢はどこにも寄り道せずに、俺のマンションにやって来た。
食べられるために自らドアをノックしたウサギ。
メモ書きの地図を握り締めたまま、伊勢はドアの内側に押し付けられてキスをされている。
「伊勢──伊勢」
伊勢の唇が震えている。彼のファーストキスをもらった。
待ち望んだそれは、まるで食べたことのないデザートだ。
触れたらなくなってしまいそうで、ムースより柔らかい。
「ごめんな。初めての相手が俺で」
「嬉しい。キス…気持ちいい…」
うんと優しく、壊さないように、セカンドキスをする。
「感じる?」
「…うん」
「ごめん。…確かめてもいいか」
恥ずかしそうな頷きを見てから、伊勢のジーンズのジッパーを下げた。
下着の上から指でそっと撫でると、感じやすい彼のそこが、もう屹っていた。
「先生」
三度目のキスをして、快感に揺れる赤い目を見詰める。
その呼び名はもう返上だ。
「新垣さんでも何でもいい。先生はやめよう」
「どうして…?」
「俺の気持ちの問題だよ」
生徒に恋をした。
恋愛感情で全部を片付けられるほど、俺は器用な人間ではない。
「──もう講師じゃないから」
「…先生…」
「やめようって言ったろ? 先生のままじゃ伊勢にキスできない」
さよなら講師生活。
伊勢と唇を重ねるために、俺はこんな、頭の堅いやり方しか思い付かなかった。
「…して。キス、もっとしたい」
素直に囁く唇を塞ぐ。
優しいキスをしながら、下着の中へ指を忍ばせて、伊勢を直に触る。
ぴくん、と跳ねる熱い固まり。伊勢は男だ。分かっている。
「ごめんな」
「…謝ってばっかり…」
「子供のお前にひどいことをしてる」
拭い切れない罪悪感を持ちながら、手を止めることもできない。
伊勢を掌に包むと、それはもっと固さを増した。同じ男にこうして触れるのは初めてなのに、手を上下するたび濡れてくる先端に、言い知れない興奮を覚える。
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