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35 ウサギとの恋 7

「んっ、あ…っ、やぁっ…」  伊勢の全部にキスしたい。誰も見たことのない体の奥まで。舌先を尖らせて中をくすぐっていると、感じ過ぎた伊勢は啜り泣いてよがった。  シーツを乱して悦ぶ姿がたまらない。彼を俺だけのものにしたい。もっと深い場所に触れたくて、伊勢の足の間に猛った腰を進める。 「あっ…あっ」 「熱いか」 「孝成…の」  目で見るものが、こんなにも扇情的だとは思わなかった。  伊勢の中に入ろうとしている俺。ひく、と唇よりも赤い蕾を動かして、待っている伊勢。 「──や…っ、何、あっ」  急な温度の差に、戸惑う声が上がる。  少ない知識の中にあった男を抱く方法。右手から冷たいローションを垂らし、止まらなくなった自分たちを潤す。 「伊勢」 「…孝成…も、もう…僕」 「──伊勢」  好きだ。お前が好きだよ。何度もそう囁きながら、伊勢を貫いた。 「…孝成…っ」  俺を呼んでいるのに、伊勢の体は怖がってベッドヘッドへずり上がってゆく。  ばらばらな伊勢を抱き締めて、泣いている顔じゅうにキスをする。 「ゆっくり、息をしろ」 「うん…っ、うん──」  シーツを握り締めていた手を取ると、伊勢はすぐにそれを背中へ回し、ぎゅ、と抱き返してきた。感じたことのない快楽と、彼に全てを預けられた幸福感が、同時に押し寄せる。 「…伊勢…、大丈夫か…?」 「平気──」  俺みたいな、こんなに悪い男が好きなのか。一途な伊勢に惑乱している。  彼と同じ想いを、俺は返せているのか。 「好きか? 俺のことが、そんなに」 「…うん…。孝成で…あふれそう…」  俺もそうだ。伊勢が欲しくて溢れそう。 「一緒に、いこうな」  きつく締め付けられて限界がくる。くちゅ、と繋がった場所で音がする。  伊勢の肌を汚した透明な滑り。ローションがシーツに落ち、汗に混じって、前後に律動を始めた自分たちを昂ぶらせてゆく。 「伊勢。…伊勢っ」 「…あ…っ、んぅ、んっ」  俺の裸の腹に、伊勢の腹が擦れている。その狭い隙間で確かに息づいているものがある。  触れて欲しそうに揺れている、放っても放っても萎えることのない、伊勢の屹立。腹の間に手を潜り込ませて、伊勢を握った。快感だけを与えたい。快感だけで、伊勢を愛したい。 「は…っ、ああっ、孝成っ」 「伊勢」 「孝成、孝成っ」  どこから生まれる音なのか分からない。耳に届く粘着質の音。啼き声。腰と腰がぶつかる音。互いの名前。ベッドの上で全てを混ぜて、恋人は忘我してゆく。 「や…ああ…、あ──!」  乱れた髪に頬を寄せて、いっそう強く伊勢を抱いた。  掌の中も弾けそうだ。もう俺も、冷静ではいられない。 「伊勢…っ、抱いてろ。俺を離すな」 「うん…、…あっ、…もう、や、やあぁっ」  しがみつく伊勢の手に、今際の力がこもった。二人で白い一瞬を目指す。  途切れがちな嬌声を聞きながら、俺も激しく呼吸をして、伊勢に溺れた。 「──好き…。孝成──」  最後に聞こえたのは伊勢の声だった。  気を失う瞬間に伊勢は笑った。満ち足りた顔で、目も鼻も赤くして、幸せな微笑のまま、眠った。  ひとつ残念だ。彼は大人の男の蕩けきった顔を、見ないまま眠ったのだから…。

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