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第9話 経緯

 重岡と夕飯を作っているところに、部活帰りの酒田と仕事帰りの水瀬が揃って顔を出す。 「晩飯なんです~?」 「麻婆茄子と鶏むねサラダっす~」 「足りますかね? タコときゅうりのキムチ和えも作っときましょうか?」 「いやぁ、いらんでしょう。足りんかったら、晩酌ん時に自分で作りますよ~」 「酒田もいらん?」 「俺は米食うからいらない。それよりも、昼飯のアレ・・・」  あぁ、と慶介は唇をとがらせる。酒田はやたらと木戸に言った「考えとく」の一言を心配しているのだ。放課後も木戸に声をかけられないように、とそそくさと帰る準備をさせられた。 「だから~、考えとくって言うのは、行けたら行くと一緒やん」 「お見合いに出るのはまだ駄目だぞ!」 「なんでだよ?! 行かねぇよ!」 「だって、今、行けたら行くって言っただろ!」 「は? ・・・行けたら行くは、行かんやつやろ?」 「え? ・・・行けたら行くは、なんとしてでも行くんじゃないのか?」  2人はお互いの認識の違いにポカンとする。  水瀬がひと笑いしたあと、酒田の背中を叩く。 「酒田ぁ、大阪の奴に『行けたら行くわ~』言われたら、()ぇへんでぇ」  夜、景明(かげあき)に酒田が今日の様子を結構、事細かく報告していた。金銭は発生してないけど景明から酒田へ警護として依頼しているから、業務報告のようなものだ。と水瀬が言った。 「見合いか。風紀委員には悪いが、今年は不参加だな」 「そもそも、見合いって何するんですか?」 「大阪だとー、ホテルの会場を借りて、立食形式の食事があって、ちょっとしたゲームがあって、グループに分かれて話をする。普通の婚活パーティだよ~」 「水瀬さん、さすがに端折りすぎです」  学園公認お見合いパーティは、大人のアルファが金にモノを言わせてオメガを得ようとする、青田買いを止めさせるため、苦肉の策から生まれた恒例行事だそうだ。  アルファの参加条件は18歳以上、未婚、番がいない事だが、オメガは学園グループの在学高校生だけなので、なるべく参加人数を増やすため、運営を任されている風紀委員が婚約者や交際相手が定まっていないフリーのオメガに声をかけ参加をお願いするのだと言う。 「しかし、慶介くんは男オメガです。公認パーティに限らず勧誘、招待を受ける可能性は高い。ただただ不参加と突っぱねるだけでは角が立ちます。対策を講じる必要があるでしょう」 「せやな、酒田は口が回るタイプやないしな。クリスマスまでに何かええ言い訳を考えるとしよう」  水瀬は景明に対してなら真面目な返答をするのか。と、珍しいものを見た気持ちになった。  慶介の視線に気づいた水瀬は、慶介の思ういつもの水瀬の顔になって、何か? と言う。 「水瀬さんは景明さんの秘書なんですよね? でも、重岡さんは補佐って言ってた。・・・何が違うんですか?」 「そうですね~。秘書は個人契約、補佐は会社契約、と言ったところでしょうか。僕は本多さんの命令にのみ従いますが、重岡は信隆さんの命令にも従います。あと、補佐は余りアルファの総称的な面もあるので、秘書を任命するのも名乗るのも、ちょっと特別です」 「主従関係みたい」 「昔はそう言いました」  風呂から上がってきた重岡が「アイスコーヒー作りますが、欲しい人いますか?」と聞いてきたので手を上げる。全員だった。 「他にも聞きたいこと無いです?」 「あー、聞いてもいいのかな・・・。あの、父、の、悪評って、なんなんすか?」  う”ーーーん、と深く景明が唸った。 「どこまで話したもんか・・・。あいつは言わんやろうしなぁ、でも、慶介も知りたいわな。これまでの経緯(いきさつ)と言うやつを」  景明がが語るには、弟の信隆には婚約者がいた。  高校卒業すれば結婚して番を持てると思っていたところに、2つ年下のアルファにフェロモンの相性で奪われてしまった。信隆は烈火の如く怒り、奪ったアルファとアルファの実家を徹底的に潰した。  周りが、そんな事をしてもオメガは帰ってこないぞ。フェロモンで惹かれ合った者は引き離せないのだから諦めろ。と慰めたり説得したが、2人が番になった後も、信隆が大学卒業するまで猛攻の手を止めることはなかった。  信隆は言うた。復讐だ、と。  自分以外の男を選んだ女を許せなかったから、女が最も嫌がるであろう番のアルファの力を削ぐという復讐をした。  当時は運命の番ブームで、オメガが相手を選ぶのが主流だから、と婚約を簡単に解消した両親には家との関係を切り、金銭的復讐を選んだ。 「信隆の稼ぎを期待してた両親が何度も説得に行ってたが、無視されてたのをよく覚えてるわ」  大学卒業後、信隆は荒れててな、ベータの女を抱いては遊び暮らしとった。ベータの女が妊娠したから責任をとって結婚しろ。と家に押しかけて来ることも2度、3度とあった。  避妊しろと忠告に行ったら、愛人契約書に避妊は女側がすること。子どもが生まれても認知しないし、結婚もしない。という愛人契約をしているから女どもは無視しろ。って言いおったわ。  慶介の母親はその内の1人やろうな。認知してもらえないから、他の男に言い寄って結婚して托卵したんやろう。 「正直に言うと、オメガでなければ引き取ることはなかった」  アルファとしては、オメガをベータ社会に置いておくことはできない。保護するには養子にするという形で子を取り上げるしか無い。愛人契約書を引っ張り出してきて脅すことも考えた。金で解決させる準備もしていた。しかし、慶介の母親は「オメガは要らない」と、子どもを渡すことに躊躇わなかった。むしろ父親の方の説得の方が大変だった。  禍根もトラブルなく養子にできたが、今度は信隆の方に問題が発生した。九州に連れていくつもりだったのだが、過去のトラウマから信隆は息子といえどオメガに対して平静でいられなかった。 「実家には頼りたくなかったんやろうな。珍しく『どうしたら良いと思う?』なんて、俺に相談してきてな。ほんなら『ここは、ひと肌脱いでやるかぁ。』と思ってな、大阪で引き取ってやるよ。っつったら、あいつ、金だけ出して丸投げしやがった、はっはっは!」  金はたんまり余ってるから欲しい物は何でも買え。と言われた。  こうして慶介は大阪で父親の兄の景明たちと同居することになったのだった。 ***

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