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第11話 補習授業
補習授業の受け方は3つある。
1つ、学校に来て教室で授業を受ける。2つ、アーカイブで授業を聞く。3つ、課題を提出する。
この学校に夏休みの宿題はないが、補習授業を受ける人には課題という宿題がある。
課題を90%以上の回答率で提出すれば補習授業は受けなくても良い。つまり、課題さえ出せばOK。
課題が解けない人は学校で補習授業を受けて授業プリントを出せば、課題は免除される。学校に来れない人はアーカイブで補習授業を聞いて授業プリントを送信すれば、同じく課題は免除。できれば課題にも挑戦してねシステム。
1年生の赤点補習授業登校組は15人ほど。オンラインで何人見ているか分からないが、赤点をとるのはオメガが多いようだ。付き添いのアルファもいるので教室は人がいっぱいで賑やかだ。
酒田は一緒に授業を聞くときもあるし、部活動に行く日もある。ここにいるアルファはオメガの付き添いで来た補佐や交際中のアルファたちがほとんどなので、慶介にアプローチして来る奴がいない。
こんなところで心穏やかな学校生活がおくれているというのは、なんというか皮肉な感じだ。
ここで、初めて友達ができた。同じ男オメガの野本 くん。女の子みたいに小さくて細くて、サラサラの前髪を勉強中だけモコモコのパイル生地のヘアゴムで結ぶ、アホの子って感じの可愛い男の子。
「頭良いじゃーん。なんで赤点取ったの? ヒートだった?」
慶介が課題をスラスラと解いていたら声をかけられ、何となく懐かれた。
野本くんは見た目を裏切らないアホの子だ。まず記憶力がない。すぐに補佐の竹林 に聞く、覚える気がないタイプ。ちなみに野本くんは竹林をチクリンと呼ぶ。
記憶系は面倒がらずにノートを見返し教科書のどこに書いていたかを確認して捨て紙に30回書き取るという勉強を、すぐ切れる集中力とやる気を、おだてて、応援して、励ましてやらせる。・・・大変だった。
竹林は大変に喜んでいた。間違いなく、課題は真っ白で授業プリントを自分が代わりに書いて提出することになるだろう、と思っていたそうだ。まさかすべての解答欄を埋めた課題が提出できるとは想像もしていなかった。と、感謝された。
授業さえ受ければ、難しくなかった課題に慶介は時間を余らせ、難しそうならやらなくても良い「ワンランクアップ課題」に挑戦することにした。
やはり、難しくて、酒田と竹林に聞いたが、わからない、教えられない、と言った。
「俺もテストは70点台だから、その課題は無理。東大、京大を目指すような奴らがやるレベル」
自習室のアルバイト講師に教えてもらいながら解いたが、時間がかかりすぎてテストの時にはこのレベルの問題に辿り着くこともできないだろう。
そもそもテストの問題数が公立で受けたテストの1,5倍くらいあるのだ。しかも、難しい問題ほど得点数が少ない。60点以上は普通に取れるけど80点以上は簡単に取らせないぞ仕様なのだ。
家の中は静かだ。
景明と水瀬はほとんど家にいない。出張で外泊してたり、緊急対応が出来るように会社につめてるらしい。重岡も基本、仕事部屋から出てこない。
酒田は道場の集中強化期間で毎日大変そうだ。
朝の5時からランニングに出て汗だくになって帰ってくる。午前も午後も道場で練習して、疲れた顔して夕飯を飲み込んで、バタンキューと寝ている。
そして、毎日、まいにち、「勝手に家を出てはいけない」「ちょっとコンビニに~なんて以ての外」「お出かけしたいなら付き添うから言ってくれ」と言い聞かされ、練習試合で遠くに行く時は殊更に「頼むから今日は家に居てくれ」と懇願してから外出している。
なので、補習授業の期間が終了すると慶介は完全に引きこもりになった。
読んでおくと良いというバース性についての本は積み上がったまま放置。戦後のオメガのノンフィクション小説を読んだらあまりに悲惨で読む手が止まってしまった。
漫画は一通りは読んだが少女マンガ系ばっかりで、運命の番がどうのこうのって話ばかりだったので流し読みしかしていない。まぁ、でも、雰囲気はわかった。女のオメガの頭ん中はあんな感じなんだろう。
それより俺はやっぱり楽しいゲームがしたい。と思うのは逃げか甘えか・・・。
ベータだった頃の夏休みは、陸上部の部活に行って、昼からは友人の家で遊びだべり、夕食をごちそうになったり、時には友人たちと一緒に夕飯を作って友人の母親に感謝されたり、夜遅くまでつるんで遊び倒した。
「・・・暇だなぁ・・・」
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