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第20話 答え合わせ

 酒田と福富を含む特定班たちとの話し合いにより、答え合わせをクリスマスパーティと称し公認お見合いパーティの日とかぶるように日程を決め、風紀委員にはお断りの理由を作る事に成功した。  クリスマスパーティと言う名の答え合わせは、カラオケのパーティルームで開くことになった。  特定班たち7人と慶介と酒田、警護兼保護者として水瀬も来た。 「さぁ、早速、始めよう」  まずは、福富以外のメンバーの推論を聞く。この段階では、例え正解だったとしても、何も言わない。それぞれの推論を聞いた上で、福富以外のメンバーの総意の答えを決める。満を持して福富の推論と決め手を明かす。最後に、慶介が推論があっているかの答え合わせをする。  慶介による答え合わせの対価に、特定班の皆さんには、水瀬が用意した誓約書にここでの話を秘密とする約束してもらう。  さらに、慶介を特定するために見つけた情報は金銭で買い取る。  誓約書で慶介のベータ育ちを学校に広められるのを防ぎ、買った情報には消す等の対処をして今後バレる可能性を潰しておく。というのが水瀬の発案だ。 「じゃ、俺からー。まずは、名簿を調べたよ。中学、小学校、幼稚園、『どこかのアルバムに乗ってないか?』って。でも、どこにもなかったから『海外か?』って思ったんだけど英語が喋れるわけじゃないし、この路線は外れだと思って捨てた」 「僕はアルバムに載ってないならアンダーグラウンドかと思ってそっちで調べた」 「中学にいた痕跡がないからダーグラウンド出身って発想だろ? だったら、中学で部活やってたって話、おかしくないか?」 「いや、陸上はブラフじゃねぇかなって思ったんだよ。800mって妙に具体的だし、実際に部活には入らなかったじゃん?」 「それな。俺が気になったのは『本多』の名前に反応が遅れるってところ。だから『コイツ、もともとは別の名前だったんじゃねぇかな?』って思ってさ」 「そうそう。つまり、学校関係の情報は全部作り物の設定で、アンダーグラウンド出身であることを隠してるんじゃ? と思ったんだけど、だったら救出されたって情報がないとおかしいんだけど見つからなくってよー」 「それで警察情報でも探ったか? どうせお前ら、ダークウェブに手ぇ出したかっただけやろ」 「そういうお前は何しててん?」 「俺は病気系」 「それで?」 「どうでもええやろ、福富が答え知ってんねんから、今の議論はどうせただの前座や、誰が真面目にやるか。アホらしい」 「くぅ~、今の負け惜しみ聞いた? 気分最高!」 「うっざー」  議論が交わされた結果、福富以外のメンバーの答えは「慶介の正体は、海外の日本人学校でアルファとして育てられていた誤判定オメガ」だ。  ちなみに誤判定オメガというのは、バース性の男子に起こる性別判定の誤りのことだ。  バース社会では男の子は皆、5歳くらいの時に血液検査とエコー検査でアルファかオメガを判定する。その判定が偶に間違えることがあるのだ。たいていは成長の過程で、アルファなのに威圧フェロモンを全く使わない。とか、アルファなのに誘引フェロモンに影響を受けた。とかで気づくことが多い。 「満を持して俺の発表と参りましょう!」  嬉しそうに福富が立ち上がった。 「俺が基本的に根拠にしたのは風紀委員の木戸の発言。木戸が役所のバース課職員の席を狙っているのは有名だ。そこから確かな情報を得ていると仮定した。その木戸が本多のことを『常識知らず』と『手つかずのオメガ』って言ったんだ。──どうやったら常識知らずのオメガが作れる? そもそも常識って何の常識だ? 本多の学力は普通だし一般常識もある。でもー・・・『手にキス』を知らなかった。今じゃ手にキスをしないのはジジババくらいだ。つまり、本多の常識知らずは『バース性の常識が無い』ってことだ! じゃあ、バース性の常識を知らないのはどんな人物か? ここは俺、良く気づいたと思ったね〜。つまり〜? ・・・ベータだよ。本多はベータ社会で育ったんだ。だから『手つかずのオメガ』なんだ」  推理ドラマの探偵のように人差し指を立てて、ドヤ顔をかます福富に、特定班たちは納得のどよめきを返した。慶介はたったアレだけの情報で真実を言い当てた福富に拍手を贈った。 「なるほどねー、ベータ社会に行ったアルファかぁ。じゃあ、俺らの誤判定オメガはアタリか」 「そう。であれば、探すのはベータ社会。喋りが関西だから、近畿の中学生を片っ端・・・というのは冗談で、陸上競技大会の800m選手で探した。そしたら下の名前だけ()ヒットした。──問題は、こっからだよ! 名前がヒットした『田村慶介』と『本多慶介』が同一人物かどうかを確かめるのが大変だったんだよ。なんせ、どこにも田村慶介の顔がねぇの! 諦めかけたその時っ! ──あのバズった女装ですよ。あれがベータ社会でも一部バズってくれたお陰で、ベータがSNSに『田村慶介』の顔をアップしてくれたんだ」  タタッと、スマホを操作して福富は慶介にSNSの画像を見せてきた。  顔を並べた比較画像だ。卒業アルバムの写真を写メした画像を使って、女装の慶介を「知り合いに似ている」とコメントしている。女装の顔と卒アルでは小首をかしげるが、女装をしていない今の慶介と卒業アルバムの写真を比べれば同じ顔だと判断出来る。 「な、これ、お前だろ?」 「うん」  慶介に見せたスマホを回収して、福富は続ける。 「たださ~、本多がベータ社会に行ってた理由がわかんねぇままなんだよなぁ」 「誤判定アルファじゃないのか?」 「でもよ、誤判定アルファだとしてもベータ社会に行く小学校まではバース社会の私立に通うやん? 幼稚園と小学校にいないってのはおかしくね?」  うーん、と皆が頭をひねる。 「惜しいですね。福富くんは『ベータ社会で育ったのだ』と自分で言っていたじゃないですか。バース性の子どもをベータ社会で育てるにはどんな手段があると思いますか?」  水瀬が出したヒントに特定班のメンバーが更に頭をひねる。 「ベータ社会に行くアルファって言うと、任務、追放、縁切り・・・子どものうちから任務でベータ社会に行くこともあるけど、それも普通は中学からだし」 「バース社会が嫌いなオメガがベータ社会で育てたとかは?」 「オメガが一人で子ども育てんのか? って、まぁ、ジジババの時代はそうするのがふつうだったんだろうけど、今どきは・・・」 「ベータ女性が子どもを引き取ったってのはどう? あり得るかは抜きにして、ベータならベータ社会で育てるでしょ」 「それなら、たしかに~。でも、ベータにバース性の子どもが渡ることあるか? 今どき、捨て子はないだろし、追放された父親が連れ去るってのも考えにくいよな」 「追放縁切りされたアルファの子どもの親権はほぼオメガだもん。オメガが追放されることはないし──」 「乳児の取り違え! ・・・いや、無いわ。出産する病院分けてるもんな」  意見が出なくなり膠着状態に陥る。  慶介は、そんなにベータから産まれるということはありえない事なのか。と、思い知らされた。 「皆さん、協力ありがとうございます。ここまで考えていただいても出てこないということがわかり安心しました。正解をお答えしましょう」  水瀬からのアイコンタクトで慶介が答える。 「俺の母親はベータの女性です。俺はベータの女性から産まれたオメガなんです」  一同が声を失い『驚愕』という顔をしている『ベータからバース性が産まれるのか?』とのつぶやき、細かい内容の答え合わせをして、各々が『なるほど通りでオメガらしさが無いと思った』と納得していく。  特定班7人のうち、4人はベータ社会でバース性を隠して活動する補佐だと決まっているらしく『ベータ社会あるある』が本当なのかの質問や慶介なりにバース性がバレそうな所をアドバイスした。  秘密を気にしなくて良いとなると、慶介は愚痴り始めた。自分は男だからアルファたちのアプローチに辟易している事、男オメガと話が合わなくてつまらない事、普通に遊びたい事。  愚痴を聞いていた彼らから『じゃあ何がしたいんだ?』と聞かれたので、慶介がベータの時にしていた遊び方を話すと『俺らアルファ同士の遊び方と一緒だな』と皆が携帯ゲーム機を取り出し『普通に()遊ぼうぜ』と言った。  ちょっと良い所のお菓子、リーフパイやフィナンシェ、ラングドシャなどのお茶会の準備を取っ払い、ピザとポテトを注文し、コーラで乾杯して、本来使う予定のなかったカラオケで普通に歌い始める。  歌いたくないやつは携帯ゲーム機で対戦をしたり、スマホいじって雑談しつつ、おもしろ情報を探して見せあって笑う。飽きたらゲームとカラオケメンバーで交代したりした。  慶介が、重岡の選ぶニッチな漫画の話をすると、知っていたやつが作者のことをコケ下ろすように賛美し、いかにその作者の漫画が気持ち悪い最高の作品かを語る様子を、ストローをズゴゴーと鳴らしながら聞き流したり、アンダーグラウンドという闇世界のこわーい噂話を怪談気分で聞いたり、学校の中で履くスリッパ青赤緑黄でローテーションしている内の黄色は不人気で来年の1年は黄色でかわいそう~という、しょうもないことをダベった。  まるで谷口や山口としていたような、やりたかった男子高校生の遊び方をして、今までで最も満足した遊びだった。 「また、このメンツで遊びたい」  慶介の一言に皆が顔を見合わせ、控えめに意見する。 「いや~、無理かなぁ~。あんまり親しげにしてると他のアルファから探り入れられるし」 「俺ら口が軽い自覚があるから、うっかりを避けるためにも遊ぶのは止めといたほうが良いと思う」 「そうそう、俺らも一応、婚約者募集中ですし?」 「・・・そっか・・・」  彼らと友達になれそうと思ったのは慶介だけで、楽しかった今日の遊びは彼らアルファたちからオメガへの接待だったのだ。と、気づく。  せっかくの楽しかった気持ちが波が引くように去っていく。  このショックは回復するのに長くかかった。 *** ・次の更新は、明日の11時になります。

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