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第22話 4回目のヒート・R18

 本多本家から帰ってきた信隆は、軽く威圧をだしながら『本家の末を潰せ』と指示を出した。 「君に、安全で快適な環境と生活を約束したからね。心配しなくていい。ちゃんとしておく(・・・・・・・・)」  信隆のにっこり笑顔を、恐ろしくも頼もしく思う。が、しかし、何をどうするのかは聞かないでおこう。  冬休み明け、木戸から文句を言われた。  木戸は冬休みのお見合いパーティで、慶介を連れてこれなかったことを風紀委員仲間と参加者アルファたちからチクチクとさんざん嫌味を言われ続けたそうだ。 「これでクリスマスパーティで収穫がなかったなんて言わないよな?」 「本家に帰ったら婚約者をあてがわれたよ」  ギリッと睨まれたので、本多本家で言い渡された婚約者の話を完結に報告すると、木戸は小さく安堵のため息をついて『これで言い訳が立つ』と呟いた。  慶介はその後、ぼーーっとすることが増えた。  高校の2年と大学に行く2年の間で相手を探さなきゃならないと思うと気持ちは焦るのだが、何を考えればいいのかすら解らなくて、未来や結婚した自分を想像することもできなくて思考は霧散し、結果ぼーっとしている時間が長くなる。  景明に結婚相手の選び方を聞いてみたが、 「結婚を焦って決めると碌なことにならないのはベータもバースも同じや。ゆっくり考えりゃええ」 「でも、あと4年しかない・・・」 「せやなぁ、三男を退けたとしても、20歳までの条件は残るやろうな」 「見つかるんかなぁ」 「なぁに! どうしても見つからんとなれば、俺らが良いアルファを探したるから心配せんでええ。──俺と水瀬が良しと思うて、重岡がSNSのあら捜しをしても問題なくて、信隆のお眼鏡にかなうアルファや。──おぉ? 見つかるかぁ? ハッハッハ」  笑った景明に、慶介は抱え込んでいた肩の荷をそっと下ろすことにした。  ヒートシェルターの準備をされている間の慶介は手持ち無沙汰になる。  暇ならスマホを弄るところだが、今は何ということもない何かを考えた。  慶介は中学の頃、スクールカーストでいうと1軍にいたが、まだ誰ともお付き合いなどをしたことは無かった。女子から告白されたこともあったが、付き合ってもすぐ別れる女として有名だった女子だったのでお断りしたのだ。  オメガだと判明するまで、慶介の性的指向は女に向いていた。スマホでアダルトなものを検索していたこともあるし、自慰のお供は局部スレスレをうまく隠した女の裸の画像だった。  だが、フェロモンを知ってしまってから、女子に持っていた性的嗜好が薄れた。・・・いや、はっきり言おう。慶介はアルファを性的な目で見ることが出来るようになった。  あの腕に抱かれたいとか、キスがしたいとかは思わないけど、フェロモンを嗅ぎたいとちょっとだけ思う様になった。  ただ、本当は、あの気持ち良かったフェロモンオナニーがまたやりたいだけかも知れない・・・。  一応、慶介もオメガとしての勉強というか意識を変えるための情報収集は今も続けている。最近だと、水瀬に頼んで探してもらったR15指定の女アルファと男オメガの両性モノ漫画は、作品の傾向が尖っているのもあるが、自分に置き換えて考えるのがヤダな。と思った。  他方、ボーイズラブ漫画のほうはアホエロとか友情感覚もあって『アリかも?』と思えたので万が一、結婚するのなら相手は男が良さそうだと思ったのだが、いざ、男同士のアダルド動画を見るとうぇ~と思ってしまったので、やはりよくわからない。まだ性的なものは早すぎたのかもしれない。 「まずは・・・キス、してみるか?」  ボーイズラブのきっかけにも良く使われていた。キスができたら男もイケる的な流れを思い出す。  女とするキスは想像出来るが、男とのキスは想像出来ない。でも、したくないとはまた違う。試してみないと解らないと本当に思う。でも、試す相手がいない。 (酒田に頼むのは立場的にアカン気がする)  オメガから頼めば警護や補佐は断れないし、それって形式はセクハラじゃん? やっぱ駄目だ。  慶介はう”ーーん、と唸る。 「慶介、ヒートシェルターの準備やっといたから。最後、自分でも確認しとけよ」 「水瀬さんがOKしたなら大丈夫じゃね?」 「その水瀬さんが慶介に確認させろって言ってたんだ。面倒くさがらずにちゃんとやれ」  酒田に頭を小突かれて、自室を見に来た。たしかに、物が変わっている。ご飯系統が慶介の好みに統一されているのもあるが、一番は、前にはなかったローションとコンドーム、大判サイズのウェットティッシュが増えていた。前回の状態を見透かされていて恥ずかしい。  慶介はコンドームを1つ取り出し『しかし、コレはどうすればいいのだろうか?』じっと見る。ソロプレイでコンドームを使うことはあまりない。布団が汚れないように、ということだろうか。 「どう使え、と・・・?」 「指に被せて後ろの穴に入れるんですよ?」  後ろから声をかけられてびっくりする。驚きで言葉が出てこないだけなのに、水瀬に使い方の説明をはじめられてしまった。  ──でも、そうか。ヒート期間中のオメガは尻の洗浄しなくて良いんだ。あ、指だけもいらないんだ。結腸抜きとやらをする場合は洗浄がいるんだな、ふーん。じゃあなんでコンドーム? 爪で傷つく? そんな繊細なもん? え、オメガは止められなくなっちゃう? そ、そっか~。アナルセックスで中出しするとお腹壊すって言うじゃん? ほう、アルファの精液は大丈夫なんだ。へぇ~。  思ったより勉強になった。  4回目のヒートは、月曜の夕方頃に始まった。  前回と同じくリビングで重岡のマンガを読んでいたら、帰ってきた酒田が鼻と口を押さえながらリビングに入ってきて『玄関までフェロモンが充満してる』と言われ、謝りながらシェルターに入った。  やはり、知らなかった頃には戻れないと知る。  ムラムラしてくると、出したくて仕方ない。  まだ硬さのないそれを刺激してもなかなか気持ちよくなれなくて、一度味わってしまった快感を求めて体が熱いのに頭は冴えたままな、チグハグが苦しかった。  半日たっても満足の行く快感がえられず、こすりすぎた皮膚がヒリヒリとした熱を持ち始めたので、ローションの助けを借りる事にした。  冷たく粘性の高い液体を手に塗りつけて半ばやけになりながらフィニッシュをかけた。白濁で手を汚し、疲労と賢者タイムの虚脱感に沈む体を無理やり動かしシャワーを浴びた。  性欲の高まりは終わらない。  再び高まった性欲を鎮めるために手を動かしたが、そのうち前だけでは満足できないのだと気づき、水瀬に教えられたやり方に飛びついた。  コンドームを指にかけ、後ろの穴のぬるつきをゴムの薄皮越しの指で確認した。そこはローションの追加が必要なさそうな、糸を引くほどに濃く溢れ、慶介は大きく2回、息を付き、指を押し込んだ。  爪の先が、つぷと埋まる。性的興奮よりも人体への心配と知的好奇心の方が高まった。何度も、つぷつぷと出し入れし、埋まる指の長さが増えていく。 「はぁぁ・・・、ん、・・・ぁ、・・・はぁ、んぅー・・・」  次第に高まる性欲に、キュキュウと中が引き攣れると、求めていた快感が腹の奥に響き、甘く高い喘ぎ声が漏れ、たまらなく気持ち良い。  快感を求める脳が行為のエスカレートを促し、慶介はググゥと指を根元まで奥に進めた。ヌルつく中が熱く柔らかく指を締め付け、本能が叫んだ。  ──もっと、奥に欲しいッ!!  奥の疼きに届かせようと指をめいっぱい伸ばし、指の先で探るように動かすことのなんと気持ちのよく、また、なんと切ないことか。 「ふぅうんっ、んんっ、ふっ、うぅ、んんぅッ」  気持ち良い・・・と体が震えて喜びぶが、心がまだ足りないと不満をちらつかせる。それを掻き消すためにも、もっと、と激しく指を動かし『全然届かないよぉ』と誰にでもなく切なさを訴えた。  夢中で指を掻き回し、快感に酔い、満たされない気持ちが何故なのかという理由には目をつぶった。  4日目には体の熱は治まり、脳が正常に回りだす感じがした。体と気持ちの疲れをとるために一日だけ休み、翌日から散らかったゴミの後始末をして、汚れ物は軽く湯で洗ってからカゴにまとめて放り込み、シーツを新しい物に取り替える。そうして慶介の中でヒートが終了したとの区切りが出来る。  前回ほど疲れなかったが、薬の恩恵を絶大に受けた2回目のヒートのような軽さはもうありえないのかも知れない。と、ため息を付きながらシェルターの扉を開けた。 「おつかれ。・・・慣れてきたか?」 「まぁ、・・・たぶん」 ***

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