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第32話 5回目のヒート・R18
扉が閉まり、医師がいなくなった部屋はベッドで慶介が身動ぎして出る布がこすれる音しかしない。
(先生、もう行った、もう良い?)
鼻に届くフェロモンに誘われるまま、慶介はズボンと下着を一緒に脱いだ。湿り気を感じていた下着はツーっと糸ができるほどだった。
たっぷりのヌメリはまるで中へと誘っているようで、中指を体に沿わせて伸ばし指の先端をくぼみに当てて思った。
このまま中に指を入れればあっという間にイケるだろうが、今は、達してしまうのがもったいない。最高潮まで高めたところでイきたい。
──もう少ししてから・・・そしたら、きっと、すごく気持ちいいから・・・
性器には直接触れず周りを撫でて、ここだという所を僅かにずらして、押して、引っ掻いて、自身に愛撫を重ねていく。
ジンジンと火傷のように熱く、痛痒く、掻きたくなる程に熟れた中に、ぬぷぷぷと指をゆっくりと入れた。
「はぁ〜〜・・・」
ようやく得た直接的な快感に熱い空気を吐き出し震えた。
「あぁ、いってまぅ・・・! ぁ、だめ、まだだめッ、んんッ~!」
ほんのちょっと動かすだけでも気持ちよくて、急いで指を引き抜いた。それがまた快感の波となって慶介の体を絶頂へ押し上げる。
「どこも触ってないのにっ、いいっ、あっ、い、いくっ、いっく・・・!」
慶介はシーツを握り、体をこわばらせる。どこにも触れていないのに、体は快感の余韻だけでみるみる頂点へと高まっていく。『このままじゃ、達してしまう』と、慶介は川の流れを無理やり、変えるような気持ちで体に無理を強いて波を逃した。
「はあ、はあ、危なかった・・・。どうしよ、どっちでイこかな。中キュンキュンするけど、前の方が頭ん中すっきりするしな・・・」
このまま性欲に支配された脳の司令に従いたい気もするのだが、いかんせん、腹痛で悶えた疲労が残っているので出来ればいい感じに疲れて眠りたい。
慶介は前を選んだ。後ろと違ってヌメリのないソコはじっとりと汗ばんで、十分過ぎるほどに高められた神経はソフトな握りでも大きな刺激となって脳へ届く。そこへ、永井の服を嗅いで、匂いで更に脳を痺れさせた。
「はあぁ、フェロモン、き、気持ちいぃ、頭バカんなる・・・。イイ、イきそう、い、いく・・・、あ、あかん、後ろが濡れてきた。──だめ、ちがう、後ろは使わん、キュンキュンされても使わんからぁ~!」
結局、前を扱いているのに、後ろの穴をズボズボとされる想像をしながら、精を放ちイッた。
賢者タイムだけではない疲労が眠気を呼び、意図していた通りすんなり寝れた。
*
翌朝、腹痛がもう起こらないか確認するために部屋を移動し、シャワーで永井のフェロモンを洗い流し様子を見ることになった。
時間が経つと、力を入れていないのに腹が固くなってきて、押してみると痛かったのでナースコールで医師を呼んだ。
触診をした医師に『お腹が張っている』と言われたので、慶介は『お腹が張る』という状態を覚えることにした。
医師の触診は服の上から押されたり、軽く叩かれたりするのだが、そうされるとお腹の痛みが少し緩んだ。・・・正直に言うと、性的に感じていた。それが恥ずかしくて腕で顔を隠していたら『よくある、普通の反応だよ』と言われた。
バレていたらしい。一層、恥ずかしい。
「どうしようかな。やっぱり、アルファが一番の薬だから、誰かにお相手を願うのが一番なんだけど、・・・嫌なんだよね? じゃあ、永井君の服を届けてもらうしかないか・・・」
学校の授業が始まっている時間だったので、10分もしない内に永井の服は届けられた。
(はぁ~、これこれ、あ~、お腹とけてく・・・)
袋の口から溢れてくる匂いを吸い込むと、フェロモンを受け取った脳と体が喜んだ。
触診ごときで反応している慶介の頭は、腹痛が収まるに比例してフツフツと湧き上がってくる性欲に抗うことが出来ない。
(うぅ、ヌルヌルん中、触りたい。中指クイッて曲げたら当たる気持ちいい所触りたい・・・)
早くオナニーしたい、なんてことが言えるわけもなく、もじもじする慶介の気持ちもお見通しな医師はフッと鼻で笑った。
「服で治って良かったよ。明日は休みだけど、あのアルファなら毎日提供してくれることだろう」
医師がドアの鍵をかけた音を聞いたら、早速、永井の服を袋からだして思う存分吸い込む。
ゾワゾワと鳥肌がたち、ドロリと中から液が出てきた気がした。慌てて後ろの穴を服の上から触ってみたが、ちょっとヌルっとした感覚はあるけれど、何かが漏れてしまった訳では無い事にホッとした。
今回も昨日のように焦らそうと、服の上からグッと穴を押してみたところ、
「あ、これ・・・これ気持ちいぃ。服の上からグイって押すの、中が押し上げられる感じがして気持ちいい」
慶介は夢中になって繰り返した。
指が上下が内臓を揺らすと、口からは押し上げられた空気が意味をなさない音になって出てくる。
「はあ、ああ、きもちイイ。もっと、もっとして。ああ凄いィ・・・、ヌルヌルいっぱい、溢れる、う、ぅ、ん、んぉ、お、おぁ、」
この動き、気持ちがいいのは良いけど、手首がだるい。手の動きだけでは決め手に欠けると思った慶介は、左手に切り替えて、右手に永井の服を掴み、思い切り匂いを吸い込んだ。
「あっ、あ、いけるっ、これっ! イけそう、永井の匂いイイ、あ、ながい。これ、きもちいいっ、ながいの・・・、永井でいくっ、イク、イっちゃうぅ!!」
ぎこちないが疲労のない左手が力強く乱暴に押し上げ、腹の中の熱に振動を伝え、グチョグチョに濡れた服ごと指を押し入れた。服ごと指を飲み込んだ中が締まり、足も手も指先を縮こませて、ビクッ、ビクゥッと体が跳ね捺せながら中イキで達した。
*
眠ってしまっていたらしい。
目が覚めるとぐちゃぐちゃにした覚えのあるシーツや服がきれいになっていて、慶介自身もさっぱりとしている。そもそもどこにあったのかも知らないバスローブを着て寝ていた。
サイドテーブルには小さめのパンが2つとゼリー飲料、清涼飲料水。あと『なるべく全部食べるように』というメモ。
時計を見れば昼はとうに過ぎている時間だった。無いと思った食欲は口に運べば、存外、体が欲して、2個目の塩パンなどは塩味が沁みるように美味かった。
その後、腹痛は起こらず、また、絶頂を求めるような情欲の波もなく、常にムラムラとした感覚が続いた。
後ろでするとエスカレートする性欲も、前ですれば賢者モードが虚脱感や疲労感をもたらすため、永井の服は部屋の中にフェロモンを充満させておくためのフレグランス扱いになっていた。
夕方頃、ドアがノックされ、慶介が返事をする前にサポーターの人が入ってきた。
幸いオナニー中ではなかったが、ヒート状態を他人に見られるなんて経験が無いから、思春期の女の子みたいに布団を引き寄せ体を隠しオドオドとした。サポーターは『恥ずかしがらなくていいのよ。オメガはみんなそうなんだから。うふふ』と笑う。
お風呂の介助を申し出られたけどブンブンと顔を横に振って断った。サポーターは追加の服と食事を届けにきたらしい。
食事は、基本的にお箸を使わずに食べれる物を提供しているのだと教えられて、リクエストを尋ねられたので、パスタが好きだと答えた。慶介が出されたミートパイとポタージュスープをぺろりと食べきると、サポーターは『食欲があって良かったわ』と言って出ていった。
食欲と睡眠欲がきちんと満たされると、性欲は抑え込める。しばらく忘れていたスマホのチェックをしたら、意外にも少なく、水瀬から数回、腹痛を心配するメッセがあっただけ。
慶介は永井の服で解決した事と、医師がいて助かったので学校のシェルターを選んで良かった事を書いて返信した。
しばらくすると、腹部に違和感が出てきて、擦ると固い気がした。『お腹が張ってきたのか?』と、さっきまで使っていた永井の服を探すが見当たらない。どうやらサポーターが持って行ったようなので、新しい服を使うことにした。
袋に入った服を見て慶介は躊躇した。その服が部活動で着ているやつだったからだ。
濃厚なフェロモンへの期待感はあれど、平常時でも疑似ヒートになりそうになった記憶で怖さを感じる。
意を決して、開けた袋から広がったフェロモンに、慶介は驚愕した。
(これ、誘引フェロモンだ!!)
鼻と口を覆い、なんとかフェロモンを遮ろうとするが効果があるわけがない。
落ち着いていた情欲が一気に高まり、身の内で、暴れまわる快感の波となって慶介を襲う。まるで、大時化の海で押し寄せる波に揉まれて、息をする間もなく溺れているような心地でもある。
息も出来ず、ベッドの上でぺたんと座り、ピクピクと体を震わすばかりで、放心して動けない。
だれか・・・
海は嫌だ、苦しい。
いるなら、暖かな原っぱがいい。
草原で寝転んで、日差しを受けて深呼吸を──
すぅ・・・と僅かに吸い込んだ空気に甘い匂いを捉えて、脳内がよりどころのなかった大海原から、花が咲き誇る幻想的な空間に塗り替えられ、力が抜けて、くにゃりと倒れこんだ。
──脳が命じる。
ゆるく勃ったそれを握り上下に動かす。濡れて受け入れることを覚えたそこには指を滑り込ませ、クチュクチュと小さく鳴らす。
──見せつけろ。
「・・・ぁ、いい、ココきもちいい、クチュクチュしてきもちいい。まえ、ゴシゴシしたら中がキュゥキュゥして締まるんが、もっときもちいい。もっとするぅ・・・」
──呼べ。
「あぁ、ながい・・・永井、ながい、あ、あ、触って、きもちくなりたい。俺のここ、触ってっ、キモチイイの欲しい。ながいっ、ながいッ、ほしい! ・・・すき、気持ちいいのすき、すき、永井すきっ、すきだから、きて、ここ入れてっ! 永井ッ! ああ、永井ィイ!」
技もなくただ掻き回し、腰をカクカクと揺らし、後ろだけで足りない快感を前を攻めることで補う。
猟犬に追い立てられた獲物のように、脳を支配する永井の誘引フェロモンから逃げているつもりで快感の絶頂へ追い込まれていく。
「はぁん、いい、きもちい、永井、もっとして、きもちいいのもっとちょうだい! イきたい、イきたいよぉ、んあっ、あっ、あっ、永井、いくっ、いくいくいく、いっぐぅ~〜〜ッ!!」
後ろがギュゥッと締り指を喰いしめる。勢いなく漏れ達した前を、震える手で握り扱き出し切って、全力疾走の後のように倒れて脱力した。
心地よい虚脱感とか、フワフワした気持ちの良い余韻なんてものは微塵もなく、あるのは半端ない絶望感。
永井の名前を呼びまくってしまった。永井に好意なんて無いのに、嫌いとかではないけど、抱かれたいなんて思ったことなど無いつもりなのに。
慶介は自覚している理性と真逆のことをした本能に、疑心を抱く。
──自分の本心はどちらなのか
深刻な悩みが生じたにも関わらず、ムズムズする下半身にまた手が伸びてスルスルと撫で、カリカリと爪を立てて掻きはじめている体が本当の自分だなどと思いたくない、と慶介は憤怒する。
(もう止めたい。終わりにしたい。こんなの自分じゃない・・・! 永井の服なんて燃やしてしまいたい。でも・・・、この服がないと腹痛で悶絶することになる。あの痛みと苦しみは、辛い・・・)
痛みの恐怖に怯えた慶介の心の隙に、また誘引フェロモンが花狂う甘い世界へ引きずり込もうと誘ってくる。
(嫌だッ! やめろ! 消えてくれ!)
脳に深く絡みついた誘引を引きちぎり、風呂場へ向かった。
お湯になる前の冷たい水を避ける気力もなく水を受け続ける。冷やされた体が湯で温まる頃には誘引フェロモンも薄れて安心して息がつけた。
もう、戻らない。向こうは花の快楽地獄だ。
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