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第9話 『より選ばれた果実』になりたい

僕は黙って玄関を開けて、家に入った。 そして林檎に見つからないように自室に入った。 釦が飛んだワイシャツを処分しなくちゃならなかったからだ。 でも、運悪く林檎が僕の自室に入り込んでベッドで居眠りをしていた。 「……おまえ」 あれだけ勝手に入るなって行ってるのに林檎は聞かない。 僕は物音をたてないように着替え始めた。 起こさないように物音を立てないように。 ……起こしたら面倒だ。 僕はブレザーを脱ぎ、リボンタイを外して……ワイシャツを脱いだ。 「……蜜柑の肌が綺麗」 急に後ろから林檎の声がした。 ……いつから起きてたんだ。 僕は振り向かないで部屋着に着替えた。 釦が無いことに林檎に気付いたら大変なことになりそうな予感がした。 「なんか、いつもより色っぽく見える」 一瞬ギクリとしたけど態度には出さない。 「蜜柑?!どうしたの……ほっぺたのガーゼ」 「怪我。少し切っただけ」 嘘、本当は『刻まれた印』を隠しているだけ。 僕は手首のベルトの跡を隠すために素早くシャツに袖を通した。 「……蜜柑、なんか俺に隠してる。図書室で何かあった」 「林檎には関係ない」 「誰かに告白された?!」 「男同士でどうして……」 「おかしくないことだよ。だって俺蜜柑が好きだもん」 そんなの、林檎を知ってる奴なら分かっていること。 林檎は僕のことに必死すぎるから。 「蜜柑、隠さないで話して!!教えてくれるなら俺何でもするから」 そう、……なら。 「林檎は僕のためなら何でもする?」 僕は試した。 「何でも!!俺は蜜柑が全てだから」 「なら、林檎を『食べさせて』」 林檎も果実、なら僕はお前を食べて……より『選ばれた果実』になってやる。 すると林檎は笑顔でベッドに再度転がった。 「蜜柑。蜜柑に食べられるなら俺は本望でしかないよ」 こいつは本当におかしい。 自分が食べられるのが本望なんて。 「僕の処女を蜜柑が『食べてくれる』、こんなに嬉しいことはないよ」 林檎の想いは狂ってる。 僕と同様に、 林檎は狂った果実だった。 なら……僕は林檎を食べて、より『選ばれた果実』に本当になってやる。 僕は林檎の上にのし掛かり、シャツをたくし上げて、ズボンに手を掛けた。 「優しくしないでもいいよ」 林檎は嬉しそうに僕を見上げた。

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