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第28話

 あれだけ休んだ上に理由が理由だ、レギュラーを外されてもおかしくなかった。けれどチーム全体が晴樹の帰りを待っていた。監督もNOとは言わず、無事に全員揃っての出場が叶った。  地方大会当日。  各地区から2チーム、合計14チームが参加する、総当たり戦だ。涼風と朝日奈、勝った数の多い方が全国へ行くことになる。  ちなみに勝った数が同じだった場合は、セット率やら何やらで決まるので、ただ勝つだけではなく、なるべく点差をつけて勝っておきたい。  試合は2日かけて行われる。ハードな大会が、ついに幕を開けた。 *** 「改めて言う、迷惑かけてごめん」  集合すると、晴樹はまず頭を下げた。 「おかえりっ♪」  サキさんが晴樹の髪をがしがしと混ぜたり、肩やら腰やらパシパシと叩いて歓迎する。明るい空気に持っていくのはさすがだと思った。 「レベルアップして帰ってきたと思ってもいい? 期待してもいいんだよね♪」 「いいよ、繋いでくれたら絶対に点をもぎ取る」  晴樹の目は自信に満ちていた。戦う覚悟と、絶対に勝つという強い意志が伝わってくる。  浅葱色のユニフォームから伸びた長い腕は、仲間の肩を順番に叩いていった。添えられた一言はどれも的確で、みんなの士気も上がる。 「サキ、一緒に楽しもう」 「もちろん♪」 「海里、どんなトスでも決めてやる」 「よろしくお願いします!」 「柊斗、遠慮するな」 「はい」  声かけが柊斗まで来た時、僕は泣きそうになった。  普通に捉えれば、遠慮せずどんどん攻撃に参加しろという意味だ。でも、それだけじゃないと、僕だけは分かる。  ジュニア時代の監督の口癖――。 『バレーボールで言われた事は、全部バレーボール以外の時間にも言えることだ』  バレーボールをしていない時の行動も、全てプレーに繋がっている、出てしまう。バレーボールで叱られた事は学校生活や家での行いにも同じ事が言えるし、その逆もある。と、そう言われ続けて育ってきた。 『ちゃんと靴を揃えなよ、そういうのプレーに出るから』  監督の真似をして、晴樹もよくそう言っていた。  つまり、そういう考え方で育ってきたから、僕達はバレーボールと私生活を切り離して考ない。だから僕と柊斗の関係についても、自分に遠慮するなと言っているのだと受け取った。……深読みかもしれないけれど。  涙を堪えて晴樹を見上げると、目が合った。考えている事が伝わったのだろうか。晴樹は僅かに微笑み、頷いた。 「凌、自分の思うように、自由におもいっきりやってくれ」  晴樹が僕の肩に手を置く。その一瞬の出来事で、胸がいっぱいになった。  僕の思うように――。  欲しいものは必ず手に入れる、そんな晴樹があれだけ欲しがっていた “僕” に自由をくれた。  晴樹の気持ちを受け取り、大きく頷く。  僕達は、恋人にも家族にもなれなかった。でも、仲間という絆で繋がっている。  晴樹が部員全てに声をかけ終わると、円陣を組んだ。監督と顧問も加わり、みんなで拳を前にだす。 「涼風!」  晴樹が声を張る。 「勝利!」  みんなで勝利と続くと、一斉に拳を突き上げた。 ***  地方大会ともなると、初戦からレベルが高い。気を抜いたら一気にもっていかれる。こちらが1点決めれば、あちらも1点決める、そんな試合が多かった。  そうなると、粘りと集中力、そして体力の戦いになってくる。部員数の少ない涼風は、大会の後半戦が特にキツかった。 「これって1日何包まで?」 「3包って書いてありますね、ってかみんないくぜぇぇ!! いやっふぅぅぅ!!!」  体力の限界が近づくと、足のつりやすいサキさんはギリギリの用量の漢方を飲んで頑張ったし、那央也さんはどんなに苦しい場面でも余裕の笑顔と持ち前の大声でみんなを鼓舞した。 「優里!」 「海里!」  優里さんと海里さんは “漫画みたいな双子プレーを見せて” という無茶振りに応えて伝説を残すことに成功。 「よっしゃぁぁぁ! サービスエースっ!」 (ドドドドドドドドン!)  関さんはピンチサーバーで見事に活躍したし、山川先輩は観覧席で応援団長として太鼓を叩いてくれた。 「お疲れさまです!」 「ナイスです!」 「……!」  荒木、藤木、木下は選手をうちわで扇いだり、ドリンクやタオルを手渡してくれたりして、ベンチから一緒に戦った。 「拓さん、ナイスレシーブ!」 「おまえもな」  リベロは僕と拓さんの2人。拓さんは柊斗から言われた言葉に思うところがあったらしく、あれから取り組む姿勢が変わった。リベロというポジションに対するプライドみたいなものが感じられるようになってきて、一緒に練習することも増えていたし、お互いその成果は出せたと思う。 「3番!」  柊斗はもう、遠慮しなかった。 「晴樹さんにトスあげるつもりだったのに、気がついたら柊斗にあげてたわ」  と、海里さんが呟くシーンも度々あった。  柊斗はブロックでも活躍を見せた。どシャットとまではいかなくとも、相手のフェイントを誘うことに成功していたし、相変わらずの足技に救われたシーンも何度もあった。大会の中で1番成長したのは柊斗だと思う。 「絶対に全国へ行く……俺がみんなを連れていく!」  そして晴樹は部長として、エースとして、大きな背中を見せてくれた。仲間が諦めずに、時にはベンチや壁につっこんででも繋いだボールを、全ての想いを背負って相手コートに打ち込み続けた。  涼風は10勝、朝日奈も10勝。並んだため、セット率が計算される。結果、僅かに上回る涼風が、全国へ進むこととなった。  いつもとは違う、天井の高い体育館。  あちこちで漂う汗の匂い、涙と歓声、賑やかな応援、審判の笛、シューズが床をこする音……全てが遠のく瞬間があった。  晴樹と柊斗がトスを求めて吠える。腕を後ろへ引いて助走する2人には、美しい翼が生えていた。高く跳ぶ、その姿が目に焼きついて離れない。

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