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2 新しい役員

 大新(だいしん)百貨店本部秘書室長、新庄理人(しんじょうりと)。  首から下げる形のネームプレートが、俺の胸元で揺れている。  重役会用の資料を作りに、今朝も早めに出社した。  父はまだ自宅で優雅に朝食をとっている頃だろう。  だから社長室のドアをノックしたのは儀礼的なものだ。 「失礼します」  部屋の中は朝陽が射し込み、白い煌々とした光に包まれていた。  デスクの上に資料の書類を置いて、そこに印字されている名前を見詰める。  東亜(とうあ)銀行元ニューヨーク支店長、紅林脩一(くればやししゅういち)。    先日株主総会で新任されたばかりの出向役員の名前だ。  メインバンクから役員を迎えるのは珍しくないが、今日着任するその人に、俺は少なからず興味を抱いている。 (…あのしゅうちゃんと、同じ名前)  子供の頃、隣の家に住んでいた、しゅうちゃん。  空手を習っていて、とても強くて、優しかった兄のような人。  後で気付けば俺の初恋だった、三つ違いの幼馴染と同姓同名の人がやってくる。 (本当にしゅうちゃんだったらいいのに) 幼馴染と離ればなれになって16年の歳月が過ぎた。 両親を亡くした俺が、新庄家に引き取られたのは、9歳の冬が終わる頃だった。

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