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9 甘くて苦い再会の味 1

「私の部屋はどこだ?」 「あ、あの、この階の一番奥の、向かって右側です」  長い足が静かなフロアをすたすたと歩いていく。  執務室へ入ると、脩一は俺を応接用のソファーに座らせ、スーツの上着を脱いだ。 「さすが大新百貨店。重役室もいい造りだ」 「ありがとうございます」 「久々に日本の空気を吸った。東京の道路は混んでいるな」  脩一は俺の隣に腰を落ち着け、伸びをするように背凭れに両腕を預けた。  彼との距離が近くて心臓が跳ねる。 「ニューヨークも道路事情はよくないと聞きましたが」 「ああ。それは正しい」 「……いつアメリカへ渡られたんですか?」 「中学1年の春、だったかな。ニューヨークの日本人学校へ編入して、それからずっと向こうで暮らしていた」 「そんなに前に――」  俺と別れてすぐに、脩一は渡米したことになる。  環境の違う国で暮らすうちに、日本で過ごした記憶が色褪せてしまってもおかしくない。 「日本から出たことのない身には、アメリカはとても遠い国です」 「社長に同行することもあるだろう?」 「いえ。父が商用でこの本社を空ける時は、私が残って代理業務をしていますから」 「父――か。似ていない親子だな」  はっとして、俺は口元を押さえた。  隠す理由もない事実でも、脩一に改めてそれを告げるのは切なかった。

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