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17 気鋭のビジネスマンたち 2

「二人とも座れ。仕事半分のうるさい昼飯だが、無礼講の集まりだ。楽しんで行け」 「堂本専務、お先にいただいてます」 「こら、誰が松コースにしていいと言った」 「おやっさんはこういうとこケチだから」  個室の中に朗らかな笑いが起きる。  俺のそばで脩一も、くすっ、と笑った。 「噂には聞いていたが、どうやらこれが専務のチームのようだな」 「チーム?」  脩一の後について俺も座布団に座る。  部署や役職、年齢もばらばらなこの昼食会はいったい何だろう。 「よくこうして集まって、専務は企画を練ったり社の内外の情報を交換したりしているらしい。取締役会よりよっぽど意義がある」 「知らなかったです」  確かに、立場に関係なくメンバーたちは活発な意見を交わしている。  特に若手の社員の目が生き生きとしているのが印象的だ。 「これが企業の本来の姿だと思わないか?」 「…本来の姿…」 「社員が柔軟に業務に取り組めば、企業体質もしなやかなものになる。頭でっかちな経営者サイドからすれば矛盾だろうが、実際に大新を動かし、数字として業績を上げているのは彼らの力だ」  現場の社員を重用している専務と、それとは真逆の社長を頭の中で比べてみた。  取締役会で慇懃に振る舞う社長は、きっとここにいるメンバーを見ても役職ひとつ把握していないだろう。 「お茶をどうぞ」 「あ、すいません。いただきます」 「ここのアナゴはうまいんですよ。お二人もぜひ食べてみてください」  普段、役員や社長秘書が一般の社員と接することはほとんどない。  役職に縛られない、距離の近いこの昼食会は、経験したことがなくて新鮮だった。 「おもしろい会ですね」 「全員、専務が直接声をかけて集めているそうだ。俺たちもチームに入れてもらったみたいだぞ」 「私も――?」 「社長秘書も役員も社員も、同じ会社で働いている。それが彼のスタンスだ」  専務の懐の深さを、会社に何年も勤めていながら知らなかった。  自分の人を見る目の無さが恥ずかしかった。  湯気の立つ膳が運ばれてくる。  ペースの速い脩一に合わせて、俺もアナゴの天ぷらに齧りついた。

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