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25 デパート王と若き役員の会議室バトル

「丸越デパートなどライバル社の多くは東京近郊に店舗を移し、顧客の拡散を図っています」  取締役会の議場となった重役会議室に、今日も脩一の熱のこもった声が響く。  彼が役員に着任してから議事録の内容も濃くなった。 「つまり駐車場確保に限界がある都内から、立地選びは郊外へ流れているということです。新庄社長、この状況で赤坂アーバンビレッジに進出する利点はいったいいかほどか、お答えいただきたい」 「このプロジェクトは我が社の至上命題だ。君が着任するずっと以前から計画を進めている。それを白紙撤回しろと言うのか」  赤坂の進出計画は社長主導によって行なわれている。  社長の性格上、一度スタートした事業は横槍が入っても完遂しようとする。 「そちらに投資するよりも、既存の不採算店舗の統合と、閉店を視野に入れたリストラ策を進めるべきです。その方が財務上健全だ」 「君は銀行マンとしての見方しかできん人間だな。帳簿ばかり覗いていないで、百貨店経営をもっと研鑽したまえ!」  社長と脩一の主張は真っ向から対立していた。  地に足のついた堅実な理論だということを差し引いても、物怖じせず凛とした若木のように意見する脩一の方が、俺には正しく思えた。 「私は紅林役員の意見に賛成ですな。過剰な投資は危険だ」 「堂本君…っ?」 「赤坂アーバンビレッジのテナント料は麻布台ヒルズの倍になるという試算も出ている。利益転換できるまで何年かかることやら」 「まあ、まだ他社も交渉段階でしょう。開発元の都市再生機構の動向を探りつつ、最終決定は先送りしてもいいのでは?」 「情けないことだ。……ここへきて二の足を踏む輩がいるとは。銀行側に手懐けでもされたのか、君たちは」 「社長、慎重論はけして臆病論ではありませんよ」  ワンマン社長の主張が取締役会で少しずつ通らなくなってきている。  逆に、着任から二ケ月ほど経って脩一の発言力は増した。  正確な調査に基づいた彼の主張に一部の役員たちが賛同し始め、社長の経営方針を不安視するようになったからだ。

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