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27 天から地へ
「いったい何を浮かれている」
ぞくりと背筋に寒気が走る。
半身を捩った俺をガラスに押し付けて、社長はスマホを奪った。
「――失礼する。新庄だ」
『社長……』
「秘書は職務に戻らせた。お相手なら私がしよう」
俺のネクタイのノットに、社長の指がかかる。
首を絞められるのではないかと怖くなって、ただなすがままにがくがくと震えた。
『新庄社長。理人に代わっていただけませんか。プライベートな相談をしていたんです。いっそ彼をこちらの執務室へ寄越してください。私の補佐を任せたい』
「仲良くしていただいて光栄だが、あれは目端が利きましてな。他の者では社長秘書は務まらん。君には秘書室の有能な人員をあてがったはずだが?」
『――私は理人がいいと言っているんです』
電話からかすかに漏れてくる脩一の声には、厳しいものが混じっていた。
ひどく怒っているようにも聞こえる。
「理人は私の秘書だ。出向役員ほど暇ではないのでな。私用電話は慎んでもらいたい」
『……分かりました。社長、彼にお伝えください。今夜は楽しみにしていると』
「残念だが、理人は接待に向かわせる。お約束はできない」
『接待? 急なお話ですね』
「神楽坂に一席設けて大切なお客様をお迎えする予定だ。紅林君、また今度誘ってやってくれたまえ」
『相手は誰です』
「先方の名を明かす必要はない。たとえ役員と言えど君には関係のないことだ。――では、これで」
通話を切って、社長はスマホを床に放り投げた。
「しつこい男だ」
「離してください――」
接待なんて聞いていない。
脩一と交わした約束を、社長の気まぐれでなかったことにされるなんて嫌だ。
「お願いです。離して」
「暴れるな」
「彼と話をさせてください……っ」
「理人!」
鋭い痛みが頬に走った。続けざまにもう二度。
社長に叩かれた反動で、後頭部をガラスにぶつけた。
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