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34 救いの手は

「どうして俺がここだと……」  事態がまだうまく飲み込めない。  激しい動悸と、震えの只中で畳の上に蹲る。 「秘書室の職員が教えてくれた。月に数度、新庄社長が偽名で料亭の予約を取ると」 「交渉相手までは分からないはずです」 「交渉? あれがか」  脩一は怒りを隠さなかった。感情のままに彼は声を震わせた。 「企業側の不穏な動きは必ずチェックが入る。銀行の調査能力を舐めるな!」 「っ…」 「不正が発覚したら東亜は地検の特捜部よりも早く大新百貨店に介入する。経済事件になって倒産されては敵わないからな。その前に大新の経営権を乗っ取って、利益確保に走るのが常套だ」  言葉の端々にメインバンクの冷徹な理念が見え隠れする。  脩一が銀行側の人間であることを、今更のように思い出した。 「大新を…乗っ取る――」 「最初に言っただろう。新庄社長に挑戦状を突きつけると。俺はあの男の古いやり方が気に入らない」  それきりは脩一は押し黙った。  長い沈黙の中で、俺の鼓動だけが大きく聞こえる。  脩一が助けてくれたのは、不正を未然に防ぐための策略だからだろうか。  頭取まで巻き込んで、東亜銀行の利益のために、俺の居場所を調べて乗り込んできたのだろうか。 (もしそうだとしたら、俺は――)  守ってもらえて嬉しかった。  単純にそう思った俺は、愚かだ。脩一の心の中が見えない。

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