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38 終わりの始まり

 社長が札幌から戻った三日後。  その日の朝のネットニュースは、経済面を賑わせる記事で始まった。 「いったいどういうことだ!」  癇癪持ちの社長が、タブレットを叩きつける勢いで怒鳴る。  見出しに大きく、赤坂アーバンビレッジの報道が載っていた。  百貨店用のテナントを外資系デパートが買い取ったと。    それだけではない。  小野田理事長と葛西頭取のトップ会談の記事とともに、大新百貨店の支払能力を遥かに超えるテナント料が明らかにされていた。 「都市再生機構からこんな話は聞いていないぞ。理人! 緊急に取締役会を開く。すぐに手配しろ!」 「…はい」  デスクのインターフォンで秘書室を呼ぶ。  役員の招集と重役会議室の準備を指示して、俺は受話器を置いた。 「まさか外資系に横から持って行かれるとは。小野田理事長との交渉はどうなっていたんだ」  「それが…」  どう答えていいか分からなかった。  理事長に渡すはずだった賄賂は、脩一の手許にある。彼がそれをどうしたのか、何も聞かされていない。  俺が知っているのは、あの料亭で理事長と葛西頭取が会ったことだけだ。  あの時にきっと、大新百貨店が不利になる取り引きが行なわれたのだ。 「お前は一億をドブに捨てたのか!」 「お答えできません。私は何も知らされていません」 「このテナントを取るために今までどれほど金を使ったと思ってる。全て水の泡か! ええ? どうなんだ、理人!」  激しく恫喝されて身震いがした。それでも俺には、社長の前から逃げ出す権利はない。  硬直した自分の耳に、ノックの音が聞こえた。 「――外まで大声が聞こえていますよ。新庄社長」  そう言って社長室のドアを開けたのは、脩一だった。  右手に黒いアタッシュケースを持っている。  三日前、俺が彼に預けたものだとすぐに分かった。

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