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39 バトル再び

「君をここに呼んだ覚えはないぞ。取締役会は隣の重役会議室だ。出て行きたまえ」  クッションの効いた椅子から立ち上がり、社長は脩一を睨み付けた。  それに怯むことなく、脩一はデスクへ静かにアタッシュケースを置いた。 「何だこれは」 「先日、神楽坂のとある料亭で拾ったものです。失礼かとも思いましたが、中身を検めさせていただきました」  バチン、と大きな音を立てて留め金が外れる。  一億の現金を前に、社長の両目が一瞬だけ中空を泳いだ。 「見覚えはありませんか? あなたが秘書に持たせた賄賂です。相手は…、そう。都市再生機構理事長の小野田氏」 「ふん。適当なことを」 「私は東亜銀行から不正行為の報告義務を受けています。現金とこんなものを見せられては、黙っている訳にはいきません」  脩一は上着のポケットから手帳を出し、それを社長の方へと開いて見せた。  日付と名前と金額が並ぶページ。紛れもない、俺の手帳だった。 「これはあなたの秘書が入社してから五年間の、贈賄の記録です」  秘書、と断言されて心臓がびくつく。  社長は、ぐ、と喉に声を詰まらせた。  弁解の余地はどこにもない。脩一が言ったことは真実だから。 「総額ざっと三十億。よくもここまでばら撒いたものだ」 「そんなもの、ただのメモだろう。誰にでも書ける」 「ごもっともです。では、こちらはどう説明されますか」  脩一はアタッシュケースの中のポケット部分を探った。  そこから彼が取り出したのは、厚く綴じた書類だった。 「新庄理人名義の銀行口座の取引明細です。私が東亜銀行の預金課長に依頼して打ち出してもらいました」 「何だと…っ」  俺は、もう終わりだと思った。  金の流れが明らかにされる。手帳に書いている内容と取引明細は完全に一致している。 「日付も金額も全く同じ。それ以外の出し入れはありません。まるで賄賂のためだけに作られた口座ですね」  脩一は、物静かな佇まいを崩すことなくそう言った。  こんな時の逃げ口上を、社長はとっくに用意している。 「――秘書が勝手にしたことだ。私は関与していない」  社長は俺の方を見もせずにそう切り捨てた。  弁護なんて期待していなかった。俺は社長にとって、簡単に使い捨てできる道具だから。

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