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40 勝敗のゆくえ

「贈賄に関してはお認めになるんですね?」 「百歩譲ってそうだとしよう。だが、私が指示を出した証拠はない」 「ではこの件について、秘書本人に責任を取らせてはいかがでしょうか」 「おお、いい提案だ。――理人」  呼ばれて、俺の背中に冷たい汗が噴き出した。 「お前を秘書の職から解く。クビだ」 「社長…」 「お前のような社員は、この会社には必要ない。今すぐ出て行け。のたれ死んでも新庄家の敷居は跨がせんぞ」  ついに来るべき時が来てしまった。いつかこうなることを俺は心のどこかで覚悟していた。  立ち竦んだまま動けなくなった俺に、脩一は目配せした。 「社長からのお達しだ。すぐに私物を纏めろ」  そう言うと、彼は俺の手を取り、掌に何かを握らせた。車のキーだった。 「使え。助手席とトランクは空けてある」 「…紅林役員――?」 「君は自由の身になったんだ」 「え…っ」  脩一が囁いた自由という言葉が、ひそかに俺の胸を揺さぶる。 「これももう、いらないな」  首から下げていた俺のネームプレートを取って、脩一はそれを二つに折った。 (もしかして、俺を解放するため――?)  社長が俺を手放すように、脩一はそう仕向けてくれたのかもしれない。  掌に握り締めたキーが、自分の体温で熱くなる。 「今回の件は、内々で収まる話なら、あえて事は荒立てたくない。東亜銀行への報告は見送りましょう」 「君の計らいには感謝しているよ、紅林君」 「痛み入ります。それでは取締役会へお出ましください」  社長は満足そうに頷いて、揚々とドアの方へと歩き出した。 「こんなくだらん話よりも、今日は大変な議題を抱えている。時間がもったいない」 「ええ。まったく。――何せあなたの解任動議ですからね」 「なっ…!?」  振り向きざま、社長は両目をこれでもかというほど大きく見開いた。  俺も、脩一が言ったことに意識の全てを持って行かれた。

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