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44 16年分の恋
解任動議が出された長い一日が終わる。
夕刻の街を猛スピードで駆けた車が、懐かしい街に辿り着いた。
横浜の郊外。進行方向の左手に脩一とよく遊んだ公園が見える。
高台に拓けた住宅街の一角に、アスファルトのところどころ剥げた駐車場と、隣り合わせて建つ新築の家があった。
「着いたよ。理人」
運転席から優しい微笑みを向けられて、どきん、どきん、と胸が鳴った。
この街に帰って来た。脩一と二人で。
車を降りてから、もとは生家が建っていた駐車場を見詰めて、ただいま、と言った。空のどこかから、両親がおかえり、と言ってくれた気がした。
長く貸家にしていた脩一の家は、彼の帰国に合わせて建て替えたのだという。
真新しい匂いのする玄関で靴を脱いで、ボストンバックひとつの荷物を持って彼の部屋へ上がった。
「早くこの家を見せたかった。約束しただろ。飲みに行こうって」
「……うん――」
「あの時、ここへ連れて来て驚かそうと思ってたんだ」
ベッドに隣り合って腰掛けて、脩一の話を聞く。
子供の頃よりもスプリングが効いていて広いベッド。
室内はバランスよく上質の家具が配置され、インテリアも彼らしい落ち着いた色で纏められている。
「お前と二人で住もうと思って建てた家だ。両親はアメリカで永住権を取ってる。誰にも邪魔されないで、一緒にいられるよ」
「いいの…? しゅうちゃん」
「理人とそうしたくて、日本に帰って来たんだ。父さんも母さんも、お前のことをずっと心配してた。冷たいことをしたって、謝ってたよ」
「ううん…っ」
俺は孤独ではなかった。
遠い海の向こうの国で、16年も想ってくれていた脩一がいたから。
「いつかお前と会えた時に恥ずかしくない男になろうと思って、がむしゃらに仕事をした。頭取から大新の出向役員を打診されて、すぐに返事をしたよ。やっと理人に会えるって、嬉しかった」
「俺も、嬉しかったよ。優しいところ、全然変わってなくて。昔より、かっこよくて」
「ここの近所のレストランに連れて行ったり、昔拾った猫の話をしたり、理人と作った思い出を追想してた」
ふと脩一は瞼を伏せた。
「社長のそばにいる時、いつもお前の顔が暗かった。俺はアメリカにいる間、理人が幸せに暮らしていたらいいって、それだけを願ってた。だから、お前につらい思いをさせるあいつに、腹が立った」
「俺――、そんな顔…してたんだ」
「理人のことはすぐに分かる。ずっと、お前のことばかり考えてた」
駆け足で過ぎた脩一の時間。
立ち止まっていた俺の時間も、やっと進みだす。
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