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第3話

 いつの間にか、淫魔はしっとりと全身に汗を纏わせていた。吊り下げられた両腕の根本、体毛のひとつもない綺麗な脇の下は、特に淫靡な汗の匂いと味がする。 「あぁっ、そこはやめてっ……」  ピンと張られた筋を甘噛みして、ふにふにと柔らかい皮膚を吸い上げる。その度にインキュバスは吐息を漏らして腰をくねらせ、小刻みな足踏みを繰り返した。 「んんっ……もう、僕、悪いことしないよぉ……やっ」  しなやかな筋肉の乗った薄い腹をなぞり、くっきりと窪んだ臍に指を押し込めば、感度抜群の敏感な身体は軽やかに跳ね上がる。 「おへそいやぁ!! やだやだ、もう、助けてっ」  ろくに触ってもいないうちからすっかり充血して尖りを見せる乳首は、舌先で丹念に転がしてやる。すすり泣きさえも艶めかしく、俺自身の五感全てが性的な刺激を受けいているかのようだった。 「インキュバスの尻尾は……扱かれるために付いているのか?」 「ひっ……」  さっきから俺の太ももに擦られ続けている硬くなった股間ではなく、その反対側、これまた天井を目指して立ち上がった細く長い尻尾を掴む。小指ほどの太さしかないそれは、先端が逆さまとなったハート形をしており、小魚のようによく動く柔らかい器官だった。 「尻尾だめぇ……あっ、やっ、も、離してぇ」  乳首をきつく吸い上げながら、尻尾の先を親指でさする。 「あっ、ん、もぉ……だめ、そこばっかりしないでぇ。お腹きゅんきゅんするぅ……」  股間を擦り付けるインキュバスの腰付きが速くなる。先走りが溢れているのか、俺のズボンは色が変わるほど濡れていた。 「インキュバスのくせに、誰の中でもない場所で射精すんのか」 「ちが、無理だよっ……無理なのぉ、男じゃ……」 「そう言いながら、もうイキそうじゃねぇか。手伝ってやろうか?」 「やだっ、絶対に触んないでっ!! 男なんてっ!!」  そう煽られて、耐えられる人間などいるのだろうか。先ほど握った時よりも熱く、硬くなっているそれに手のひらを近づければ、インキュバスは自ら腰を押し付けてきた。 「やっ、いやっ……汚いっ、気持ち悪いっ」 「自分から来といてよく言うよ」  ゆっくりと、根元から先端の方へ握り込みながら力を込めてやると、淫魔は堪え切れないというように腰を前後に振り始める。先走りが手のひらに纏わり付き、ネバネバと糸を引いているのが見なくてもわかった。 「あっ、だめぇっ……ダメなのにっ、止まんないッ」  腰の動きに合わせて尻尾を扱き、乳首を舌で転がしてやる。インキュバスの体は何度も大きく弓なりに反り返り、絶頂が近いことを示していた。 「やっ、やだっ、ダメっ、止めてぇっ……!!」 「自分でやってんだろ。この淫乱が」 「あっ、あっ……あぁあっ!!」  手のひらが湯を被ったように熱くなり、一回分とは思えないほどの体液が俺を濡らす。そこから立ち昇る淫猥な香りは、少し吸い込んだだけで脳をガクンと揺さぶられるような感覚だった。 「やっ、やらっ……」 「お前が悪いんだからな。お前が悪さばかりするから……」 「いやぁっ、離して!! 触らないでっ!!」  まだ腰に引っかかったままだったショートパンツを引きずり下ろすと、ブーツを履いた脚を抱えるようにして持ち上げた。そのまま、尻尾の付け根から始まる割れ目を両手で左右に開き、ヒクヒクと動く窄まりに体液で濡れた指を押し込んでいく。 「アッ、やめて!! 中に入れないで!!」  柔らかな肉壁は指に吸い付き、細かな襞は物欲しそうに波打っている。ぽってりと存在感のある前立腺を押し上げてやれば、インキュバスは高い声で喘ぎ、蜜のような唾液を漏らした。  そもそも、インキュバスになぜ穴が開いているのか。なぜ人の後孔と同じような造りをしているのか。一瞬浮かんだ疑問は、早く自らをそこへ沈めたいという官能の欲求によりすぐさま打ち消される。 「ごめんなさいっ、もう悪いことしませんっ……」 「今さら遅いんだよ」 「ああっ、嫌だっ!! 痛いッ、だめぇっ……!!」  ズボンと下着から雑に取り出した陰茎を割れ目に押し当てると、まるで吸い込まれるように、俺はインキュバスと一つになった。両腕は吊るされ、両足は宙に浮き、翼は壁に打ち付けられているというのに、淫魔はできうる限りの動作で懸命に腰を振り始める。 「やだっ、気持ちいいっ……あっあぁっ……男なのにっ」 「男男うるせぇんだよ。お前は散々、人間の女を食い物にしてきたくせにっ!!」 「いやっ、やめてっ……中に出さないでっ……!!」  抵抗の言葉が俺を焚きつけ、この淫乱で性悪の魔物を必ず退治してやろうという気持ちが沸き上がる。性欲だけではなく、正義感にも似た昂りが俺の中で燃え盛っている。  腰を打ち付ける度に、体内はきゅうきゅうと俺を締め付け、混ざり合ったお互いの体液が入り口付近で泡になって音を立てている。部屋中に充満した官能的な匂いと、真っ赤になって涙と涎を垂らして善がる姿、首筋を滴る汗の甘さが、俺を快楽の底へと引きずり込んでいく。 「あぁっ、んっ、や、イクっ、僕、男に犯されてイッちゃう……!!」  うねりを打って収縮した肉管に、俺の欲望は一気に絞り上げられた。腹の底から押し寄せるような射精の感覚は、今までの人生で味わったことのないほどの快感だった。  その時、視界の端に鮮やかなピンク色が目に入った。インキュバスの下腹部で濡れたように光る紋様は、俺の精液を吸収するたびに色濃くなっていく。人間の子宮のような形をしたそれは、サキュバスの証だと聞いたことがある。

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