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翠鳳さま
そんなことがしばらく続いたある日、
「あんたたち隠れてないで、ほら、りんちゃんに挨拶くらいしなさい」
おばちゃんに捕まり、三人の狸の子どもたちがちょっこりと顔を出した。
「りんです。こっちは白鬼丸です。みんな宜しくね」
三人を怖がらせないように膝を立てて座り同じ目の高さになり笑顔で声を掛けた。
「いち」
「に」
「た」
ニコニコと愛くるしい笑顔を振り撒く三人。三人ともなぜか仲良く前歯が欠けていてそれがまたすごく愛嬌があって可愛かった。
「りんちゃんあそぼ」
「みんないるよ」
「こっち、こっち」
ぐいぐいと手を引っ張られ、竜神さまの祠の裏を流れる川の岸まで行くと、村の子どもたちが川に飛び込んだり、走り回ったりして遊んでいた。
去年の夏ボランティアで保育園の夏祭りのお手伝いをしたりと、僕は子どもは好きだ。将来は子どもに関わる仕事がしたい、そう思っていたから、こっちの世界に来て子どもたちとまだ触れ合えるということがすごく嬉しかった。
「りんちゃんおいでよ」
子どもたちに手招きされ一歩だけ前には進んだけど、穏やかに流れる川面を見た瞬間、春休みにキャンプ場で弟に……迅《じん》に押されて川に落ちたことを思い出して足がガタガタと震え出した。
「ごめん、手が滑ったんだ。わざとじゃないから」と口ではそう言っていたけど迅は笑っていた。
「あら、まだかなづちなんだ」
母も大きなお腹を擦り、僕を馬鹿にするように笑っていた。
かなづちじゃない。水が怖いだけ。
母はすっかり忘れていた。風呂場で僕を二度殺そうとしたことがある、ということに。
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