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翠鳳さま

立ち上がろうとしたらヌルヌルしたものに足首を掴まれ後ろに強く引っ張られた。 「白鬼丸助けて!」 何が起きたのかすぐには理解出来なかった。 プラットホームから落ちたみたいに今度は川に落ちる。やっと居場所を見つけたと思ったのに。また違う世界へと連れていかれるんじゃないか。見えない恐怖に体がわなわなと震えた。 万事休すと思ったけど、 「こら、河童ども!俺の娘に危害を加えようとするとはな。いい度胸をしているな」 翠鳳さまが川に引きずり込まれる僕を寸でのところで助けてくれた。 首根っこを掴まれ片手でひょいと軽々と引き上げると、白鬼丸の腕のなかにそっと静かに下ろしてくれた。 「ありがとうございます翠鳳さま」 「風が出てきたから川から上がれと子どもたちを呼びに来たんだ。いちいち礼はいらない」 照れているのか翠鳳さまの頬はほんのり赤くなっていた。 「雨が降るぞ。うちに帰れ。りん、お前もだ」 翠鳳さまに言われ子どもたちが一斉に川から上がってきた。 「さぁてと」 翠鳳さまがぽきぽきと関節を鳴らし、水面にぷかぷかと浮かぶ河童たちをじろりと睨み付けた。 家に着くなりざぁーざぁーと本降りの雨が降りだした。 「白鬼丸濡れてない?」 「人の心配より自分の心配をしろ」 白鬼丸が手拭いを持ってきてくれた。 「りんさま、奥さまの翡翠《ひすい》さまがお呼びです」 浅葱さんの声がして。あちこちキョロキョロと見回していると、 「ここでございます」 白鬼丸の肩にちょこんと座る浅葱さんと目が合った。

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