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翠鳳さま
「奥さまって、翠鳳さまの?」
「左様でございます。100歳年上でございます」
「え?」
一瞬自分の耳を疑った。聞き間違えじゃないかと思った。
「人間は年を取るが、あやかしたちは年を取らない。こっちの世界では100歳年の差婚夫婦なんて普通みたいだぞ」
「そうなの」
「よくわかんねぇどな。郷にはいったら郷に従えってよく言うし、慣れるしかないんじゃないのか?おぃ蛙、いつまでそこにいるんだ」
迷惑そうに顔をしかめた。
「白鬼丸、蛙じゃなくて浅葱さんだよ。浅葱さん聞いてもいいですか?」
「なんなりと聞いてくださいませ」
「翡翠さまも鬼なんですか?」
「はい。翡翠さまは千里眼でございますから、何でもお見通しでございます。りんさま、翡翠さまの前で嘘をついたら舌を抜かれますからくれぐれも気をつけてくださいね」
笑顔で怖いことをさらりと言われ呆気に取られた。
翌朝、昨日の雨が嘘のようにカラリと晴れていた。何事も最初が肝心というし。緊張するけど頑張ろう。洗った敷布を白鬼丸が作ってくれた竹竿に干していたら、
「そちがりんか?」
すらりと背の高い女性に声を掛けられた。
「は、はい」
とても綺麗な女性だった。銀色の髪がさらさらと風に揺れていた。
「そちが来るのを待っていられなくてな。わらわのほうから参った」
「翡翠さま、はじめましてりんです。ご足労をお掛けしてすみません」
慌てて頭を下げた。
「翠鳳から聞いたときは驚いたが……」
翡翠さまにじっと見つめられた。
赤い目に吸い込まれる。嘘はつけないと思った。
「翠鳳が娘というなら、そちはわらわの娘になる。遠慮せずとも甘えていいぞ。ほんにまぁ、可愛いのう。でも、わらわの美しさには叶わぬがな」
翡翠さまがにこっと笑み、頭をぽんぽんと撫でてくれて、
「これをあげよう」
扇子を渡された。
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