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運命の相手

ひとしきり泣いて、現代じゃなく平安時代だということを思い出して、穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなった。 「よくは分からないが、若いのにずいぶんと苦労したんだな。大事なひとを失う悲しみは俺も経験があるからよく分かる。りん、俺の娘になったからにはもう二度と苦労を掛けさせないから心配するな」 翠鳳さまがにこりと笑んで頭をぽんぽんと撫でてくれた。 「白鬼丸を借りるぞ」 「一人で翡翠さまに会えないんですよ、困ったものです」 「蛙黙れ。余計なことは喋るな」 「蛙ではありません。浅葱です」 浅葱さんがぴょんぴょんと跳ねて、僕の手のなかに着地した。 「りんさまから翠鳳さまにお願いしてください。酒とおなごはほどほどにと。翠鳳さまはおなごの見る目がございません。りんさまーー」 「だから黙れと言ってるだろう!」 翠鳳さまがぽきぽきと指の関節を鳴らした。 「黙りません。翡翠さまだけでなくりんさまにまで危害が及んだらどうするんですか?」 「翡翠はりんを特に気に入っているからな。それは困る」 翠鳳さまが狼狽えはじめた。 まわりがこれだけ賑やかでも男性は熟睡していていた。端正な顔には疲れの色が滲み出ていた。目が覚めたら、まずは温かいお粥を食べさせて、それから髪を綺麗に梳かしてあげよう。 おじいちゃんの着流しをおばあちゃんに教えもらいほつれたところを縫い直した経験がまさか役に立つ日が来るなんて。思いもしなかった。裁縫道具である漆塗りの見るからに高そうな針箱は翡翠さまからいただいた。大事にしないとそれこそバチが当たる。

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