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運命の相手
「りんさまは若いのに何でも出来るんですね」
「出来ないことのほうが多いです。勉強だって、成績は後ろから数えたほうが早いし、英語なんていまだにちんぷんかんぷんだし」
「そんなことございませんよ」
浅葱さんが何かに気付きぴょんぴょんと跳ねながら縁側へと向かった。
「雲行きが怪しいですね。ひと雨来そうですね。雨戸を閉めましょう」
「浅葱さん、僕が閉めます。建て付けが悪くて戸がきついから」
立ち上がろうとしたら、
「座ってろ」
顎をしゃくるような低い声がはっきりと聞こえてきて。黒い影が僕の前を風のようにさっと横切っていった。
後ろ姿が翠鳳さまにとてもよく似ていた。
「もしかして青丹 さま……ですか?」
間違ったら失礼になるとは思いながらも、おっかなびっくり声を掛けた。
「そうだ。お前がりんか?」
鋭い眼差しを向けられ、
「は、はい、そうです」
ガチガチに緊張しながら答えた。
「あいつと母の娘になりたいとはな。ずいぶんと物好きな人間がいたものだ」
青丹さまが男性をちらっと横目で見た。
「この人は違うんです」
なんとしてでも男性を守らなきゃ。咄嗟に体が前に出た。
「お願いです。食べてないでください」
「食べないから心配するな。あいつと竜神。ただでさえめんどくさい二人を敵に回すほどそこまで馬鹿ではない。りん、余計な世話かも知れないが、あいつと母のことは、父と母と呼べ。その方が自然だ。呼びたくないと言うなら無理強いはしないが」
母は未婚のまま僕を生んだ。だから僕は父の顔を知らない。生きているか、すでに亡くなっているのか何一つ知らない。じいちゃんとばあちゃんは僕を目に入れても痛くないくらい可愛がってくれたけど、僕は家族というもののぬくもりを知らない。
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