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翠鳳さま

「コイツ、死んでるんじゃないのか?」 白鬼丸が男性の体を軽く揺すると、微かに体がぴくぴくと動いた。 「鵺がまだうろついている。俺がいれば手出しはできない。生き霊か、物の怪か、彼には何体も憑いている」 「これほどの強力な呪詛をかけられるということは八百万の神か、八咫烏の仕業か。悪さをしないということは、竜神がそれを上回る力を持っているということか?」 「案外竜神ではなくりんのほうかもな。国を災禍から守るために選ばれた神子は迅でなく、りんだったのかも知れない。迅が選ばれし神子ならとうの昔に天下泰平の世の中になっていた」 まさか二人がそんな会話をしているとはこれっぽっちも知らなかった。 そのころ僕は弟切草を抱え、いちくんの家を訪ねていた。 「あれま、りんちゃんじゃないの?」 いちくんのお母さんはちょうど食事の用意をしていた。 「干した青草を譲っていただきたくて。その代わりにといってなんですがこれを」 弟切草を差し出した。 「こんなにもらって何だか悪いわね」 「悪くないです」 ぶんぶんと首を横に振った。 いちくんのお母さんに弟切草の使い方を教えてもらった。お茶として飲んでも効果があるみたいだった。 「りんちゃんだ」 「ほんとだ」 子どもたちが一人また一人と集まってきた。 「遊べないよ」 「なんで?あそびたい!」 「怪我人がいるんだよ。また今度にしな」 「えぇ~~やだ」 これでもかと下唇を伸ばすいちくんたち。 「りんちゃんは逃げないよ。ずっとここにいるんだよ。いつでも遊べるでしょ?今日だけ我慢しなさい」 「おくってくのは?」 「いいでしょ?」 ただでは諦めないいちくんたち。干した青草をみんなで手分けして持ってくれた。いちくんのお母さんからもらった川魚を竹で編んだ籠に入れてもらい、白鬼丸が待つ家へと急いだ。

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