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翠鳳さま
魚のぬめりを軽く洗い流し、包丁で内蔵を取り除いて白鬼丸が作ってくれた木の串に刺して囲炉裏の端に立てて並べた。
「さすがに手際がいいな。りんの包丁さばきは見ていて惚れ惚れする」
「ありがとう白鬼丸。決められた食費で何とかやりくりして毎日家族のためにご飯を作って、掃除して、洗濯をして。チラシを見て安いお店を何軒もはしごして買い物をして。あっという間に1日が過ぎていく。高校に行かせてもらっているんだもの。文句を言える立場じゃない。でも……」
ぎゅっと唇を噛み締めた。
「同じ高校に迅がいて、クラスは違うけど同じ学年。迅は生徒会長。モデルをしているくらいだから、女子の人気は絶大だし、親も先生方もみんな迅の味方。迅や迅の取り巻きにいじめられていてもみんな見てみぬふり。僕はいつもひとりぼっちだった。家にも高校にも僕の居場所はどこにもなかった。あのとき白鬼丸が助けてくれなかったら………」
「りんが両性だからって、よってたかって。最低最悪なバカ連中、相手にする必要はない」
犬の姿の白鬼丸がぷいと横を向いた。
「ねぇ、ねぇ、りんちゃん」
子どもたちがわぁーと一斉に集まってきた。
「どうしたのみんな?」
「しろまる、なんでいぬなの?」
「どうして?」
「だからしろまるじゃなくて、白鬼丸だって。何度言ったら分かるんだ」
白鬼丸に睨まれ、いちくんたちが目をうるうるさせた。
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