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運命の相手

「あ、あの……」 男性をこれ以上怖がらせないように静かに声を掛けた。 「僕の名前はりんです。ここにいる人たちはみんな悪いあやかしではありません。みんなあなたの味方です。だからそんなに怯えないでください。傷に障ります」 男性がゆっくりと顔をあげた。 「驚いたな。まさかあやかしの里に人がいるとは」 男性は目鼻立ちがはっきりとしていて男らしく凛々しい顔だちをしていた。 目蓋を固く閉じ寝ていたときもカッコいいなと思っていたけど、起きている男性は寝ているときよりも何倍もカッコ良くて、ぼおっとして思わず見惚れてしまった。 「私の名前は頼理《よりみち》……」 そこで一旦言葉を止めると、 「源《みなもと》 頼理《よりみち》だ。助けてくれたのはそなたか?」 柔らかな心地いい声が聞こえてきた。 「いえ、ここにいる白鬼丸です」 「こんなに大きな犬初めて見た」 目を丸くする男性。 その直後男性のお腹がぐぐぐ~と派手に鳴った。 「すまぬ」 頭を掻きながら照れ笑いする男性。 「旨そうな匂いがする。何の匂いだ?」 「魚を囲炉裏で焼いていたんです。お粥をすぐに作りますね」 「粥より魚を食べてみたい」 「分かりました。少しお待ちください、えっと……源さま」 「頼理でよい」 くすりと笑う頼理さま。 目尻を下げて笑う顔がとても眩かった。 頼理さまみたいな素敵な男性を世の女性がほっとくわけない。頼理さまの帰りを待つ女性がいると思うと胸がなぜかチクリと、まるで針が刺さったように痛んだ。

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