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運命の相手

「りんさまどうかしましたか?」 キヌさんに声をかけられギクッとして顔をあげると心配顔で僕の顔を覗き込むキヌさんと目があった。 「黒緋さま、キヌさん、僕のせいです。ごめんなさい」 頭を下げれるところまで下げた。 「りんさまのせいではありませんよ。根拠もない世迷い言。信じてはいけません。もしあなたが迅の言う通り国を乱す元凶なら黒緋さまも藤黄さまもあなたをここに連れてなど帰ってきませんよ。青丹さまの妹君を悪く言う天狗がもしいれば黒緋さまが黙っていませんよ」 キヌさんが明るく笑って励ましてくれた。 「キヌの言う通りだ」 「黒緋さまはこう見えてりんさまのことを一番に心配されているんですよ」 「キヌ、余計なことは言わんでいい。何度言ったら分かるんだ」 「あらあらそれは失礼しました」 キヌさんがホホホと愉しげに笑った。 お爺ちゃんとお婆ちゃんが時代劇が好きでよく見ていた。テレビが一台しかなかったから僕も自然と見るようになり、日本史にやたらと詳しくなった。 年末年始に放送されていたドラマで見た比叡山延暦寺の焼き討ちのシーンがふと脳裏を過った。 あれと同じことがあやかしの里で起きているのかと思うと、胸が張り裂けそうだった。助けに行きたい。でも足手まといになる。どうすることも出来なくて。それが悔しかった。 頼理さまは何も言わず側にいてくれて。一緒に外の風景を眺めていた。右手の甲に温かな何かが遠慮がちに触れてきて。それが頼理さまの手だと分かったときにはどぎまぎして真っ赤になってしまった。身の置き場にほとほと困り、思わず身を起こそうとしたら、 「よ、頼理さま!」 肩をそっと掴まれ、広い胸元に抱き寄せられた。

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