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運命の相手

「アイツは狼だ」 白鬼丸がそっと教えてくれた。 「なんでまたここにいるんだ?りんの知り合いか?」 「僕、狼さんに知り合いはいない。狼自体初めて見たかも」 「マジか。でも、日本では狼はすでに絶滅しているから知らなくてもしょうがないか」 狼さんの目が僕に何かを訴え掛けていた。 「……会いたかった……」 「ソイツの言葉が分かるのか?」 「分からない。でもそう聞こえたような気がしたの」 見えない糸に引っ張られるようにふらふらと縁側に向かおうとしたら、バリバリと凄まじい音とともに天井の板が落ちてきて、頭が猿、体が狸、手足が虎。尻尾が蛇、鳴き声が鵺の、狼より何倍も大きい怪物が僕たちの前に姿を現した。逃げなきゃならないのに恐怖のあまり足が縫い止められたように動けなくなってしまった。 「頼理、お前一人で敵う相手ではない。助太刀する」 惣右衛門さまが二人の大男を引き連れ、刀を脇に携えてすぐに駆け付けてくれた。 「良貴殿なぜここに?」 頼理さまが驚きの表情を見せた。 「翠峰のもとに助けに向かったと見せかけてすぐに踵を返した。連中の狙いはりんだ。手薄になった隙を狙ってくると黒緋がな。頼理、黒緋にりんを取られないようにせいぜい頑張れ」 「よ、良貴殿」 顔を真っ赤にする頼理さま。 「うぶよのう」 ワハハと豪快に笑う惣右衛門さま。でもすぐに表情を引き締めた。

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