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運命の相手

「匂いが途切れただと?そんな訳ないだろ?世迷い言を並べるな」 扉の向こう側からどこかで聞いたことがある声が聞こえてきた。思うようにいかずイライラしていた。 「残る部屋はここと隣だけだ。片っ端から探せ!」 ドタン、バタンと大きな音にビクビクしながら袖のなかから扇子を取り出し両手で握り締めた。誰かがガタガタと扉を無理矢理抉じ開けようとしていた。 「その戸は立て付けが悪くてもともと開かない。開かずの戸だよ。隣を探してきたほうが早いよ」 「分かった」 一瞬だけし~~んと静まり返ったのち、すっと静かに戸が開いて、ろうそくの仄かな明かりが中を照らした。 「あれ?変だな。誰もいない。ここにしか隠れられないと思ったのに」 声の主はやはり木蘭さんだった。彼には僕の姿がなぜか見えないみたいだった。これも翠鳳さまと翡翠さまの持つふしぎな力なのだろうか。 「木蘭、何をしてる?」 ビクッと肩を震わせ振り返る木蘭さん。後ろにいたのは惣右衛門さんが連れてきた二人のうちの片方の天狗がいた。 「手柄を独り占めにするとはなかなかいい度胸だな。捨て子のお前を育ててやった恩をまさか仇で返すとはな」 「だから何?」 木蘭さんは悪びれる様子もなく、鼻をくんくんと動かしながら中を探りはじめた。

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