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運命の相手

まるで氷のように冷たい手が僕の手に触れてきた。 木蘭さんって人とあやかしとの間に生まれた子なんだ。昔は貧しくて食べることに困ると、口減らしのために間引きや子殺しが平然と行われていたとおばあちゃんから聞いた。 木蘭さんは半分あやかしの血が流れている。だから致命傷を負っても死ななかった。流れ着いたのが母親の生まれ故郷である、ここ天狗の里だった。 僕みたいな青二才が何を言っても説得力がないのは分かってる。年下の癖に生意気だと言われてもいい。たかが十六年しか生きてないやつにとやかく言われたくないと言われてもいい。 木蘭さん、何があっても生きなきゃだめ。死んだらそこで終わりだよ。生きるのを諦めたらゲームセットだよ。 「温かいね、きみの手は。おひさまみたい」 「もしかして僕の姿が見えるの?」 「ぼんやりだけど」 「木蘭今だ、そいつを殺せ!」 男が声を張り上げた。 「もしね竜神の巫女を殺したら、竜神だけでなく鬼もすべてのあやかしを敵に回すことになるよ。八つ裂きにされて骨も魂も一滴の血も涙も、何も残らないよ」 どけと言わんばかりに木蘭さんの服を咥える狼。 「分かったよ、退けるよ。お願いだからそんなに睨まないで」 木蘭さんの手がすっと離れていった。

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