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運命の相手
水面が燃える、鼻につく臭いといったら灯油しかない。現代とこの時代を自由に行き来している迅なら安易に灯油を持ち込めるはず。長屋や板を打ち付けるがけの簡易的な小屋に住んでいる人が多いから灯油をまいて火を放てば、一瞬で里を火の海出来る。
【それ以外もヤバいのを持ち込んでいるんじゃないか。例えばペットボトル爆弾とか。今はネットを見れば何でも作れる世の中だ。迅の頭なら簡単に作れるだろ】白鬼丸の心の声が聞こえてきた。
父上と母上とたぬこさんたち里のみんなを助けられるのは僕しかいない。迅の暴走を止められるのも僕しかいない。決意を固めた僕は拳をぎゅっと握りしめ白鬼丸と水無月さんのあとを追い掛け外へ向かった。
「りん、私も行く」
「足手まといになるぞ」
頼理さまの手首を掴む惣右衛門さま。
「それは百も承知。なにもしないで黙って見てるなど私には出来ません。幸人が関わっている以上無関心を装うなんて出来ません」
頼理さまはきっぱりと言い切ると惣右衛門さまの手を振りほどいた。
惣右衛門さまの屋敷を出ると真っ白い馬が僕たちを待っていた。頼理さまは刀を脇にしまうと、左手で手綱と馬のたてがみを掴み、右足を鐙に掛けて鞍に乗ると静かに座った。
「りんおいで」
笑顔で手を差し出された。
「白鬼丸の背中に乗ったことはあるけど、馬には乗ったことがないので」
躊躇していると、
「何があっても私が守る。だから案ずるな」
おずおずと彼の手を取ると、腕を引っ張られて頼理さまの前に座った。
「手綱を握って、そうだ。はじめは怖いと思うが、じきに慣れる」
言われた通り手綱を握ると、頼理さまの大きな手が僕の手の上に重なって来た。さっきまでぶるぶる震えていたのが嘘のように手の震えがぴたりと止まった。
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