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運命の相手
ついさっきまで晴れていた空を鈍色の雲が覆い始めた。ゴロゴロと雷鳴が轟き、けものの雄叫びを上げながら四つ足の獣が地にゆっくりと降り立った。狛犬を何十倍も大きくしたその獣は凛とした清廉さと神々しさを醸し出していた。
「竜神さまの祟りだ。きっとそうだ」
兵たちの顔が青ざめた。恐怖のあまり足がガタガタと震えていた。
「うぉぉぉーー!」大地を揺るがす雄叫びに、
「逃げろ!」
すっかり怖じ気づいた兵たちが弓や刀を捨てて蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げだした。鎧の男も足を引きずりながら逃げようとしたけれど黒緋さまら天狗たちが行く手を塞いだ。
「りんはよく平気でいれるな」
頼理さまに言われどきっとして顔を上げると、頼理さまが顔をしかめ両手で耳を押さえていた。
竜神さまも見る人によって姿かたちが異なる。獣の雄叫びも聞く人によって聞こえかたが違うということなのだろうか。
「竜神の渕をまずは綺麗にしてから逃げてもらわないと祟られるぞ」
「くだらん戦をすぐに止めさせろ」
腕を前で組んだ黒緋さまと藤黄さまがじろりと男を見下ろした。
雷鳴が轟き黒雲が次から次と山から寄せてくるものの雨はほとんど降らなかった。
黒緋さまと藤黄さまに男の処遇を一任し翠鳳さまと翡翠さまのもとへ急いで馬を走らせた。
「實盛《さねもり》の怨霊が祟りと災いをもたらしているのかも知れぬな」
實盛《さねもり》さまって誰だろう。首をかしげると、
「陰陽師だった弓削《ゆげ》實盛《さねもり》のことだ。生まれて間もない親王を呪い殺したと濡れ衣を着せられ遠方に流された。行方知れずだ。妹の婿の明叟《みょうそう》が家督を継ぎ陰陽師をしている」
陰陽師といったら安倍晴明が有名だ。小説や漫画だけではなくテレビドラマや映画にもなった。
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