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運命の相手

ぬくもる闇のなかからミァウ、ミァウとか細く優しい声が聞こえてきて、やや間をおいてから真っ白な仔猫がよたよたと歩きながら姿を現した。 「どこから来たの?ここにいては危ないよ」 思わず駆け寄り抱き上げようと手を伸ばしたとき、ふと思い出した。里で暮らしはじめてから数日しか経っていないけれど一度も猫には会っていないことに。猫又というあやかしにも会ったことがない。でも白鬼丸以外の犬には会ったことがある。じゃあ、この仔猫はどこから来たんだろう?キョロキョロとあたりを見回したけれど親らしき猫は見当たらなかった。 藤黄さまは白い烏に変化出来る、あやかしは変幻自在。何にでも化けられる。仔猫を見ると、甘えるようにゴロゴロと喉をならしながらミァウ、ミァウと鳴き出した。 「きみは誰?猫じゃないよね?狸さん?それとも狐さん?それとも……」 仔猫がぴたりと鳴き止んだ。 「猫に九生ありと聞いたことがある。もしかして式神?」 仔猫は僕からプイと目を逸らすと、頼理さまの足に纏わりつきはじめた。 「危ないですから仔猫から離れてください」 頼理さまが慌てて離れると、仔猫の小さな体がみるみるうちに固い鱗で覆われた蛇へと変化していった。 「あぁ~~恨めしいや」 ぐぐもった女性の声が聞こえてきた。 頭の部分だけは髪の長い女性だった。口は真っ赤に裂けていた。 「春宮さまはわらわのものだ。お前みたいな醜女に渡してなるものか。殺してやる!」 髪を振り乱しながら喚き散らす蛇女。

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