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運命の相手
「人違いではないか?私は春宮ではないし、りんは醜女ではない」
恐怖でガタガタと震えながら刀を抜く頼理さま。
「妻を守るのが夫たる私の役目だ。案ずるな」
頼理さまは自分を鼓舞すると刀を構え蛇女と対峙した。
「妻だと?笑わせるな。わらわがいながら許さぬ」
「私はおなごが嫌いだ。だからこの年までずっと独り身だった。そなたが恨むべき相手は私ではない。幸人だ。あやかしとはいえおなごを斬りたくない。頼むから消えてくれ」
毅然とした態度で蛇女を睨み付ける頼理さま。
「さすがは俺の娘婿と見込んだ男だけはあるな」
生ぬるい風が吹いてきて翠鳳さまが上からぬっと姿を現した。
「黙って聞いていれば好き勝手なことを言いやがって」
翠鳳さまは烈火のごとく怒っていた。
「りんに危害を加えないで立ち去れば許してやろうとも思ったのだが」
ちらりと水面を見る翠鳳さま。
「蛇女、お前もあやかしの端くれだろうに。なぜこんなも惨たらしいことをするんだ?竜神やりんがそちに何かをしたのか?」
鋭い眼差しで蛇女を睨み付けた。
「黙りか。さっきまで饒舌に話していたのに、どうした?」
しだいに霧が晴れてきて、烏が一羽、二羽、三羽と何かを口に咥えてどこからか飛んできた。
「草綿だ。大陸から渡ってきたが栽培が難しくな。今は山の向こうで細々と栽培しているだけという噂を聞いて黒緋と青丹と黄藤が手分けして探してかき集めてくれた。あとで三人に礼を言うんだな」
綿は吸水性に優れている。油を吸い取るのに最適かもしれない。
「黒檀もりんのために尽くしてくれた。ごねられるとのちのち厄介だから一応礼を言っておけ」
翠鳳さまは自分の背丈ほどある大きな金棒を軽々と肩に担いだ。
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