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運命の相手

「分かった、分かったよ。青丹を藤黄にくれてやる。鬼に二言はない」 「それだけ?」 「あぁ~~もう。女遊びはほどほどにする。酒も控える。翡翠と仲直りする。これでいいだろ?」 自暴自棄になって答える翠鳳さま。鬼の棟梁も黒緋さまの前では形無しだ。 「う~~ん、なんか足りないような……まぁ、いっか」 黒緋さまが手で合図をすると仲間の天狗たちが次から次に集まってきて蛇女をどるりと取り囲んだ。 クルシイ…… イキガデキヌ…… 助けを求める声が池から聞こえてきた。 竜神さまの声は僕にしか聞こえていないみたいだった。 竜神さまを助けないと。躊躇している暇はなかった。 「父上、黒緋さま、頼理さまをお願いします」 「りん、何をする気だ?」 「竜神さまを助けに行ってきます」 「正気か?」 「僕は竜神さまの巫女です。竜神さまが僕を呼んでくれなかったらあのまま死んでいた。生き返ることも、この世界に来ることもなかった」 白鬼丸がもの凄いスピードで僕のところに駆けてきた。頼理さまも息を切らしながらこっちに向かっていた。 頼理さまの顔を見たらきっと判断が鈍る。油がゆらゆらと水面を漂う池へと駆け出し飛び込んだ。白鬼丸も僕に続いて飛び込んだ。 「りん!」僕を呼ぶ頼理さまの悲痛な声が聞こえてきた。竜神さまと里のみんなを守るにはもうこれしか手だてはない。ごめんなさい。心の中で何度も謝った。 頼理さまに僕の想いを届けて恋人同士になりたかったな。父上と母上と兄上と、黒緋さまと藤黄さまと黒檀さま。そして里のみんなともっと一緒に過ごしたかったな。やっと居場所を見付けたのに……。やっぱり僕は迅には敵わない。悔しいけどそれが現実だった。

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