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運命の相手

「力?」 「我の巫女と口吸いをしたのを忘れたか?」 頼理さまの顔が真っ赤になった。 「うぶよのう。いまどき珍しい男だ」 竜神さまが目を細めて笑んだ。でもすぐに表情が険しいものに変わった。 「そなたにも見えるだろう。荒んだ都の姿が」 頼理さまがはっと息を飲んだ。山からふきおろす強い風にあおられあちこちから火の手が上がり、人々が逃げ惑っていた。 「なぜこんなことに」 「火元は宮中の祭殿だ。その意味がそなたなら分かるだろう。奢れるもの久しからず。神の怒りはもう誰にも止められぬ」 竜神さまの顎の下にあるべき宝珠がないことに気付いた頼理さま。 「幸人の狙いは最初から宝珠だった。それを手にしたものはなんでも願うが叶うと聞いたことがある」 「幸人は迅を我が物にするため父からすべてを奪う気だ。そして私からも大切な人を……」 頼理さまが僕の手をそっと握った。声も手も怒りで震えていた。 「幸人の思い通りにはさせぬ。そのためにも宝珠を取り戻さねば。どうしたらいいものか」 「何でも願いが叶うなら、迅は間違いなく僕を召喚する。迅は殺したいほど僕を憎んでいるもの」 「囮になるのだけは私が許さぬ。危険な目には遭わせとうない」 頼理さまが声を荒げた。 「あんなに美しかった都がこのまま焼け野原になってしまってもいいの?なんの罪のない多くの民が迅や幸人さまの私利私欲のため、この瞬間にも大勢亡くなっている。いつも犠牲になるのはお年寄りや女子供、弱い立場の人たちばかり。こんな悲しいことばかり。もう見たくない。今度は僕が助ける番」

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