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運命の相手
「災いは消えるか?」
「もちろん。邪魔者がすべて消えて、幸人が帝に即位する」
媚びを売るようにしなだれる迅。
「継父に僕を襲うように仕向けたのも、駅のホームから突き落としたのも、全部君だったの?」
「だってさぁ、バカみたいじゃん。見えないのに神様に拝むなんて。しかもこんなところで一生を終わりたくないし。ちょうど新しい憑代が欲しいって八咫烏が我が儘を言っていたからこれはちょうどいいって。良かったじゃん疫病神でも人の役に立てるんだもの」
怒りがふつふつと込み上げてきた。
「迅の言う通り、僕一人じゃ何も出来ない。でもね」
そのとき袖から扇子が落ちた。
母上からもらった大切な扇子だ。拾おうとしたら、
「金色の檜扇とは珍しい。これは高値で売れそうだ」
男性に先に拾われてしまった。
「返してください」
「そんなに返して欲しかったら力ずくで奪うがいい。でもその前に俺らの相手をしてもらうがな」
男性がニタニタと笑いながら懐に入れてしまった。でもその直後、
「イタタた」
男性が苦悶の表情を浮かべうめき声をあげながら胸を押さえてうずくまった。
「扇子に噛まれた」
「扇子が噛むわけないだろ」
「大丈夫かお前?」
ゲラゲラと笑われ、
「本当なんだ」
ムキになりながら扇子を取り出すと、
「うわぁ~~なんだこれ。ヌメヌメする」
扇子を床に投げ捨てた。
「ずいぶんとまぁ、手荒な真似をしますね」
浅葱さんの声、だよね?
僕が聞き間違えるわけないもの。
目を凝らして見ると、本当に浅葱さんがいたから驚いた。でもなんで浅葱さんが扇子になっていたの?
「身を隠すのとこの忌々しい結界を破るためですよ。私はそこにいる八咫烏に用があるのです」
ぴょんぴょんと跳び跳ねる浅葱さん。
神秘的な月明かりに照らされ、やがてその姿は蛙から人型へと変化していった。
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