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僕が選んだのは
「あれ、ここは……」
目が覚めたとき僕はベットの上に寝ていた。見慣れない白い天井に手を伸ばそうとして、無数の管に繋がれていることに気付いた。
もしかして現代に戻ってきた?
誰かが隣にいるような、そんな気がして。体をそっちに向けようとするもまったく力が入らなかった。自分の体なのにいうことをきいてくれなかった。
「人様を巻き込んで自殺を図るなんて。本当に信じられない。どこまで私たちを苦しめたら気が済むのかしらね」
癇癪を起こしているのは母さんだ。
「こんな大金払える訳がないだろが!」
鉄道会社から請求された賠償金の額に驚き吐き捨てたのは父さんだ。
「本当に疫病神だよね」
舌打ちしたのは迅だ。僕と一緒にもといた世界に戻って来れたんだ。良かった。ほっとしたのもつかの間。迅が恐ろしいことを言い出した。
「でもさぁ、世になかにはりんがいいっていう男もいるんだよ。結婚させたら?賠償金も払ってもらえるし、結納金もそれなりに弾んでもらえるよ」
「でもな迅……」
父さんが困惑するのも無理がない。だってその人、僕より三十歳年上の投資家だもの。子どもに性的な悪戯をして何度か逮捕されたのに金にものを言わせて示談させて不起訴になったり、あまりいい噂は聞かない。
嫌だ…。
僕は頼理さまのところに帰る。
金縛りにでもあったかのように動かない体をなんとか動かそうとしたけれどびくともしない。
そんな時だった。
「どこから入って来たんだ!」
「やだ、こっちに来ないで!」
ガァガァガァとけたたましく鳴きながら白い烏と黒い烏が二人に襲い掛かった。
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