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僕が選んだのは

突然のことに病院内は逃げ惑う人で溢れかえりパニックに陥り騒然とした。 迅はこんな状況でも余裕綽々としていて。他人事のように笑っていた。 気付いたときには屋上へ移動をしていた。 「まさかご先祖さまがきみだったとはね」 振り返るとあの男性が笑顔で立っていた。 僕はその人を知っていた。 「村井、先生……」 中学校のときの保健体育の先生だ。 「なぜ彼があやかしの里に帰らず、きみの側からずっと離れないのか、その理由がようやく分かった」 ガァーガァーと羽をバタつかせけたたましく鳴く藤黄さま。それを見た先生が、 「よほどきみは大切にされているようだね」 くすりと苦笑いを浮かべた。 「先生、両親と迅のことですが……」 そのとき下から突き上げるような大きな揺れを感じた。立ってもいられないくらい大きな揺れに恐怖を感じて思わず白鬼丸の肩にしがみついた。 「りん、案ずるな。これは地震ではない」 「え?」 驚いて顔をあげると、いつの間にか揺れはおさまっていた。 「白鬼丸の言う通りだ。さぁ、急いで」 先生に急かされて下を見ると、校庭がパカッと真っ二つに割れていた。真っ黒い何かがうねっていた。 「あれが時空の歪みだ」 「一年前の新月の夜にも同じようなことがあった。迅くんはそのときに向こうの世界に呼ばれたのかも知れないね」 崖縁に足を踏み出すような恐怖に体がガタガタと震えた。 「もしかして怖いのか?高いところが苦手という訳ではないだろ?」 「きみの背が高いから余計に怖いのかもね」 「なるほどな。りん、百を数え終わるまで目を閉じてろ。絶対に目を開けるなよ」 白鬼丸に言われた通り目を閉じた。 ふわりと体が軽くなる。頬にあたる風は生暖かくて。異様な匂いがした。

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