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第2話

   男は箕田(みのた)と名乗った。  なぜこの前を行く箕田という男は、求人の張り紙を見ているというだけで、自分に声をかけたのだろうか。  自分がいかにも子育て経験豊富に見えたとか?  一人暮らしで単身の自分が?   そう自問自答して、この風体で、特別子育てをしているような顔つきや仕草もないのだから、多分そうではないだろうと考えると、ではこの前を行き自宅まで案内する男はいったい何が目的なんだろうかと疑問は尽きなかった。  まさか僕を誘拐――?  と思いかけて、それこそそんなわけがないと心の中で否定する。  自分を誘拐して何になる。確かにワンシーズン切り詰めれば食いつなげるぐらいの貯金はしたが、たかが知れている額だ。  それに、駅ビルの中にあって、求人の張り紙をじっと見つめる男を見つけて、まさか金を持っているとは思わないだろう。  だとしたら、本当に、子守を?  不信感がぬぐえないままついて行くと、車に乗るように言われた。 「乗り物酔いはしやすい方?」  特にそういうことでもないと答えれば、 「サンタのポスターを見ていたくらいだから、子供は嫌いじゃないんだよね」  そう尋ねられ、宗谷はまあ……と言葉を濁した。  嫌いなわけじゃないが、格段に好きでたまらないというほどでもない。  まあ、子守を提案されている以上、これも採用面接のようなものなのだろうと無難に答えながら受け流す。  別にどうしても箕田の言う子守のアルバイトをしたいわけじゃない。箕田が不採用とするのなら、来年になってからでも別の短期間のアルバイトを探すまでだ。  そんな心持ちでいたから、宗谷は気楽だった。 「聞いてもいいですか」  会話が途切れたとき、宗谷はずっと心にあった疑問を続けた。 「なぜ駅の中で求人広告を見ていた僕に、この話を提案したんですか」  見守る子供が誰の子かは分からないが、見ず知らずの他人に頼むには、リスクが高いような気がするが。 「ああ、求人のポスターを見ていたからね」 「それだけで? どこの誰とも知らない僕を?」 「だからこうして会話を振っているのさ。話をしていれば、人となりが分かる。それで、きみがおかしな人間じゃないということは、もう分かっているさ」  ……そうだろうか。確かに子供相手に何かしようとは思わないが、他人様に言えないことはいくらだってある。そんな得体のしれない人間を家に招くなど、自分だったら考えられない。  その後も単発の会話がぽつぽつと続けられ、十分ほど車に乗ると、辺りの景色は市街地となった。  そのうちの一軒、一目見て新しいと分かる戸建ての庭の前で車は止まった。 「ここが我が家だ。一階はガレージで、二階と三階が居住部分」  言いながら、箕田は素早く車を停車させた。  降りてと言われるまま、宗谷は車から降りる。すると、車庫を出たところで、子供の声が聞こえてきた。 「パパ!」  声が聞こえた家の方を見上げれば、二階の窓から顔を出した子供が、こちらに向かって手を振っている。 「ああ、ただいま、(じゅん)」  潤と呼んだ子に手を振り返し、箕田は車を降りたところの宗谷を見て、子供を掌で指し示した。 「あの子と、一緒に過ごしてもらおうと思っているんだ」

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