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第4話

「クリスマスイブは、我が家は早めにパーティーを始めるんだ」  箕田の家に来てから、特に何をするでもなかった。  ソファに座って遊ぶ潤を見て数時間が過ぎた夕暮れ時、箕田はリビングに接するキッチンから、潤と宗谷を呼んだ。  呼ばれてキッチンを覗けば、サラダやチキン、ケーキ、シュトーレンらしきパンなど、数多の料理が並んでいた。  それら料理をキッチンとリビングの間にあるダイニングテーブルに運ぶよう指示を受け、宗谷はいそいそと料理を運ぶ。    潤もその小さな体で持てる取り皿や箸などをせっせと運んでおり、日頃から手伝いをしている様子がうかがい知れる。  力が弱い分、何度もキッチンとテーブルを行き来していて、その細やかでせわしない動きは、子供ならではの愛らしさがあった。  微笑ましい思いでじっと見つめていると、ちょっと、と言いつつ不満をあらわに見上げてくるその黒目も、純真な瞳をしていて可愛らしい。  ぼんやりそんなことを考えながら潤を見つめていたら、唇を尖らせた潤は、キッチンの父親のもとに駆けていく。 「ちょっとパパ、あのお兄ちゃん、働かないで僕のことみてる」  えっ、とキッチンから顔を出す箕田に、宗谷は照れ笑いを隠すように頭をかいた。 「すみません、可愛いらしいと思って」 「それは良かった」  箕田は微笑んで、スープを作る最中の鍋のもとに戻っていった。  このやり取りで、いくらか緊張が和らいだのか、料理をテーブルに置いたばかりの宗谷の服を、潤が後ろから小さく引いた。 「ねえ」  初めて彼から声をかけられた。  宗谷はやや驚いたが、緊張しすぎないで、との箕田の言葉を思い出し、潤に微笑む。  そして目線を合わせるためにしゃがみこんで尋ねた。 「どうしたの?」  子供の無邪気な発言を期待していた宗谷は、潤の口から飛び出した言葉に戸惑うことになった。 「宗谷さんて、僕のママ?」  ママ!?  違うよ、そう一言笑って否定したらいいところだが、まさか自分がママと言われるとは想像もしてなかった宗谷は言葉に詰まり、そのあいてしまった間のせいで笑い飛ばすこともできなくなった。  事態の収拾を期待して、後ろのキッチンにいる箕田を振り返る。  箕田の表情はキッチンとリビングを仕切る壁に隠れていて見えないが、いつものゆったりとした調子の声が返ってきた。 「違うよー。宗谷さんはね、潤が寂しくならないようにいてもらおうと思って、僕が頼んだんだ」 「僕、寂しくなんかないもん」  ほぼ条件反射のように潤が叫ぶと、キッチンからふふ、と微笑む声が聞こえてくる。  そんなやりとりを見ていると、ふと懐かしさを感じた。  いつぐらいぶりだろう、こんな家族の中にいたのは。  大人になってから、遠方の実家に帰ることがつい億劫になって、もう何年も帰っていなかった。  箕田家のこの家庭の雰囲気は、自然と過去の記憶と優しい気持ちを呼び起こしてくれる。  いつも自分とは関係ないと通り過ぎていたクリスマスイブだったが、こうして何かの縁か、このあたたかい家庭の空気に包まれるのもいいものだと、宗谷は微笑んだ。

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