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第5話

 ダイニングテーブルを囲んで、三人が椅子に座る。  テーブルの上には、それは豪華なクリスマス料理が所狭しと並んでいる。 「ささやかながら、これが我が家のクリスマスパーティーなんだ。宗谷さんも遠慮しないで。こんなにあるから、どんどん食べてね」  箕田は言いながら自ら取り分けて、宗谷に小皿をどんどん渡してくる。 「あ、ありがとうございます……」  自分は子守で雇われているはずなのに、まるでゲストのような扱いに、ただただ恐縮するばかりだ。 「いつもは二人だけだからさ、こうして宗谷さんがいるとまた違っていいね」  ねえ、と隣に座る潤に同意を求めて箕田が覗きこめば、がつがつと特別な料理を口に運んでいた少年は、ふと手を止めて、父を見上げた。 「今日も、そろそろ出ていくの?」 「ああ。お父さんはこのパーティーの後、大事なお仕事があるんだ」  二人のやり取りを聞くに、どうやらクリスマスイブの箕田の仕事は、毎年のことらしい。  パーティーとともに夕食を終えて、キッチンで食器を洗う箕田を手伝っていると、大方洗い終えたところで、箕田は時計を確認していそいそと布巾で手を拭った。 「それじゃあ、宗谷さん、行ってくるよ」  そう声をかけられた。  キッチンの向こうのリビングのソファでは、潤がテレビをラジオ代わりに、手もとのタブレットでゲームを楽しんでいる。 「え、ああ、はい」  きっとこのシーズンは繁忙期の仕事なのだろうと頷いた宗谷に、箕田は唇に人差し指をあてて、まだ潤には内緒だけど、と声量を抑えた声で切り出した。 「僕はサンタなんだ」 「はあ……」  唐突に何を言い出すのだろうとは思ったが、恐らくサンタの仮装か何かをして、売り場にでも立つのだろうと考えて、なんとなく聞き流したところを、箕田は違う違うと頭を横に振った。 「信じてないでしょ、その反応。宗谷さん、僕は本当にサンタクロースで、これから子供たちにプレゼントを配りに行くんだ」 「…………」  さっきの夕食に、アルコールはあっただろうかと考えて、子供用のシャンメリーがあったなと思った。きっとその中に度数は低いながらもアルコールが入ってて、おそらくこの箕田という人物はものすごく酒に弱くて――  信じられないと顔に書いたまま、呆れた表情の宗谷に、箕田は肩を落とした。 「まあそうだよね。そんな簡単に信じてもらえる職業じゃないんだよね、この仕事」  仕方ないよねと箕田は自分を慰めるように呟き、エプロンを外して出かける準備を整えた。 「それじゃあ宗谷さん、潤のお風呂と寝かしつけを頼んだよ。それと潤、長い時間ゲームはしないで、いつもの時間に寝るんだよ」  そう言い残して慌ただしく家を出ていった。  取り残され、玄関の向こうに去った箕田を見送っていたら、いつの間にか潤が宗谷の近くに立っていた。 「あ、潤くん、お風呂――」  用意するね、と言おうとしたところに、潤は宗谷が今し方していたのと同じように玄関を見つめ、ぽつりと呟く。 「パパ、サンタなんだぜ」 「えっ……」  自分より遥かに小さな背の少年の、やけに落ち着いた声と話し方にどきりとした。  しかもそれは、さっき箕田がまだ潤には秘密だと言っていたことだ。  まさかさっきの会話が聞こえていたのかとも思ったが、さっきの箕田の声量で、キッチンとリビングとの距離では、たぶん声は聞こえないだろう。  とすると、この少年は既に父の素性を知って――? 「毎年この日になると、パパ、朝まで帰ってこないんだ」

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